スズキ目タイ科クロダイ属はインド~西太平洋に約20種が知られ、日本では6種が確認されています。本州から九州の沿岸で見られるのは主にクロダイとキチヌで、今回はこの2種の見分け方と、同じヘダイ亜科に属する日本産のヘダイとの違いについて解説します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ヘダイ Rhabdosargus sarba(Forsskal, 1775)
ヘダイはクロダイ属ではなくヘダイ属の魚ですが、クロダイとしばしば間違えられます。
ヘダイ属の学名はSparusとされてきましたが現在ではRhabdosargusとなっています。Fishbaseによれば現在Sparus属の魚は地中海や東大西洋に生息するSparus aurataだけで、この種はヘダイによく似ていることからヨーロッパヘダイとも呼ばれています。
日本のヘダイに似ていますが、鰓蓋後方に黒い帯のような模様があり、同じような模様を有するヨーロピアンシーバスの群れの中にいることもあるようです。
標準和名ヘダイの由来は、下顎を引いて口を「へ」の字型に閉じているからという説と、体が平たいことから「平鯛」の意味、というふたつの説がありますが、高知や長崎で「ひょうだい」、宮津で「へいず」、紀州で「へぢぬ」、津屋崎で「へら」など、「平」にちなむ地方名が多いということから「平鯛」由来の説に軍配があがりそうです。
塩焼きなどで美味しい魚です。日本においては新潟県・宮城県~九州、琉球列島、海外では紅海をふくむ東アジアからインド~西太平洋の沿岸に広く分布し、タイプ標本は紅海のジェッダ近辺から得られています。体長は40センチほど。
ヘダイと他種との見分け方
ヘダイの体側には細く細かい、黄色の縦線が10数本入ることが特徴です。また臀鰭の軟条数は10~11と多く、日本産のクロダイ属(8~9)と見分けられます。
わざわざ「日本産の」とした理由はクロダイ属の中でも、Acanthopagrus bifasciatus などは臀鰭軟条数が10~11であるためです(ただ Acanthopagrus bifasciatus はシルエットなどを見るとヘダイ属のようにも見え、中間的かもしれない)。
幼魚のうちは腹鰭や臀鰭が鮮やかな黄色になり、個体によっては尾鰭もキチヌのように黄色くなりますが、先述の体側の細かい縦線や、頭部が丸みをおびていることにより見分けることができます。
琉球列島のクロダイ属
九州以北に分布するクロダイ属の魚はほとんどがクロダイとキチヌですが、琉球列島ではほかにもクロダイ属の魚が分布しています。
しかし、これらの海域には種の標準和名クロダイとキチヌは見られません。琉球列島にはナンヨウチヌ、ミナミクロダイ、オキナワキチヌ、イワツキクロダイが分布しており、ほかにヘダイも見られます。
その中でもミナミクロダイ(学名 Acanthopagrus sivicolus Akazaki, 1962)は屋久島、奄美大島~西表島までの琉球列島に広く分布するクロダイ属の魚で九州以北のクロダイと酷似していますが、側線上方の背鰭棘条部中央下横列鱗数の数が5枚(小鱗を1枚と数える)であることによりクロダイと見分けることができます。
琉球列島であればどこにでもいるミナミクロダイは、本州~九州までのクロダイと同様、現地で多くの釣り人に親しまれている魚といえます。
参考文献
尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衞、(2020)、 北海道の魚類 全種図鑑、北海道新聞社、590p
榮川省造、(1982)、新釈 魚名考、青銅企画出版、607p
中坊徹次(2018.)、小学館の図鑑Z 日本魚類館、小学館、528p.
週刊釣りサンデー出版編集部、(1987)、新 チヌのすべて、週刊釣りサンデー別冊 新 魚シリーズNo.1、週刊釣りサンデー、162p
Smith M.M. and P.C. Heemstra (eds.) 1986. Smiths’ sea fishes. Springer-Verlag, Berlin.ⅩⅩ+1047 pp.
<椎名まさと・サカナトライター>