「落水からの生還」生存者が語る【釣り落水事故の恐怖】 生死分けたのはライフジャケット

「落水からの生還」生存者が語る【釣り落水事故の恐怖】 生死分けたのはライフジャケット

令和4年9月、湘南エリアの人気観光スポットである江の島で、釣り人による海中転落事故が同日に2件発生。1件は生還、もう1件は未だ行方不明と明暗を分けた。編集部では、神奈川県警察本部と海上保安庁協力のもと、生還者S氏へのインタビューを実施。当事者の肉声を通じて、「釣り」と「安全」をあらためて考えてみたい。

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(アイキャッチ画像撮影:TSURINEWS編集部)

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江の島落水事故の概要

事故発生当日、S氏は5時30分ごろに江の島の磯場を訪れた。ポイントを探して渡り歩いていたところ、6時20分ごろに稚児ヶ淵で高波を受けて海中転落。転落後、打ち寄せる波に巻き込まれることを防ぐため、S氏は比較的波が落ち着いている沖へ泳いで避難。

海面に浮かんで磯場を見ると、釣り人が通報している様子が目に入ったため、動かず救助を待つことにする。6時40分ごろ、現場に居合わせた釣り人が付近を航行中のアウトリガーカヌーを呼び止め、救助を要請。6時49分ごろ、アウトリガーカヌーに確保された。

その後、通報によって駆けつけた消防の水上バイクに引き継がれ、湘南港に入港。ケガがなく、意識もクリアだったことから、病院搬送は見送られた。

「落水からの生還」生存者が語る【釣り落水事故の恐怖】 生死分けたのはライフジャケット同日に2件の落水事故が起こった稚児ヶ淵の磯場(撮影:TSURINEWS編集部)

当日の江の島への釣行経緯は?

江の島の磯場へ釣りに行こうと思ったのは、釣行日の1カ月ぐらい前。釣りは25年ぐらいやっているのですが、自分は淡水がメインなので、ちょうどそのあたりからショアジギングの道具を集め始めました。

場所を江の島に選んだのは、身近な場所であることと、比較的安全なイメージを持っていたから。磯場は観光で2~3度訪れたことはありましたが、釣りに行くのは当日が初めて。具体的にターゲットを決めていたわけではなくて、何でも釣れればOKという感じで、実際に投げてみて次につなげられればと思っていました。

当日の釣り場までの流れは?

当日は5時すぎに駐車場に車を停めて、すぐにライフジャケットを着用。釣り用のベストタイプだったので、釣り具をポケットに詰め込んで、島内を歩いて磯場に向かいました。裏磯に着くと磯場に降りる階段があり、そこまで波がきていたので「ちょっと危ないかな」と思ったんですが、高いところに登って様子を見てみたら、けっこう釣りをしている人がいたんですね。それで、「地元の人はこれぐらい普通なのかな」と思って磯場に降りました。

「落水からの生還」生存者が語る【釣り落水事故の恐怖】 生死分けたのはライフジャケット島内を歩いて磯場へ向かったというS氏だが……(撮影:TSURINEWS編集部)

落水した状況は?

当日は腰下ぐらいのウェーダーを着ていたのですが、釣り場へ向かう途中で中に海水が入ってきたので、高いところに避難しようとしたんです。ただ、そこが海に近いところで……。段差の間にある波の通り道を越え、もう一段高いところの行こうとしたときに波を正面から受けてしまいました。「ヤバい」と思って両手で岩をつかんで耐えたのですが、そこは後ろから波が回り込んでくる場所で、その波を受けて海に落ちました。

「落水からの生還」生存者が語る【釣り落水事故の恐怖】 生死分けたのはライフジャケット海況によっては波で洗われる磯場へ降りる階段(撮影:TSURINEWS編集部)

落水直後の状況は?

最初は波にのまれて、上下左右がわからない状態だったんですが、ライフジャケットが浮いていく方向が明るかったので、手を伸ばしてみたら感触が水の中とは違って、そっちのほうへ懸命に上がろうとしました。

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