令和4年9月、湘南エリアの人気観光スポットである江の島で、釣り人による海中転落事故が同日に2件発生。1件は生還、もう1件は未だ行方不明と明暗を分けた。編集部では、神奈川県警察本部と海上保安庁協力のもと、生還者S氏へのインタビューを実施。当事者の肉声を通じて、「釣り」と「安全」をあらためて考えてみたい。
(アイキャッチ画像撮影:TSURINEWS編集部)
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ライフジャケットの浮力に助けられた?
はい。それで海面に浮上してからは、まずマスクを外して、周りを見たら電話をしている人を確認したのですが、もう一度波にも洗われてしまって……。そのときに、ウェーダーを脱ぎ始めました。水が入って、もがくこともできなかったので。
ウェーダー脱いだ後の行動は?
「このままここにいたら助からない」と思ったので、波が落ち着いているところに行ったほうがいいと考え、少し沖に泳いで出ました。沖のほうに漁船がいるのも見えていたので、その人たちに拾ってもらえるかなと。ただ、もう通報してくれているのがわかっていたので、自力で漁船まで泳いで助けを求めようとしたわけではなく、「30分?1時間くらいしのげば何とか助かるかな」と思って沖へ出ました。水温もそれほど低くなかったので、たぶん大丈夫だろうと。
近くのカヌーが助けてくれた?
はい。周りの人が要請してくれてみたいです。でも、カヌーが視界に入ったときは、なぜかわかりませんが、「これで助かった」と思えず、寄ってきてくれたときに「助かったんだな」と少し安堵しました。カヌーがきてくれる前も、漁船が近くを通って、声を出したり水を叩いたりしたものの反応がなかったので、もしかしたらまた通りすぎちゃうのかなと。
カヌーの乗艇者とのやりとりは?
カヌーのアウトリガー部分につかまって、そのあと中に引き上げてくれました。そこで水分補給もさせてもらって。助けてもらったあと、「大丈夫か?」とか声もかけてもらったんですが、そのへんはよく覚えてないです。たぶん安心して耳に入らなかったんだと思います。
水上バイクでレスキュー
カヌーに乗せてもらった1~2分後には、水上バイクが救助にきてくれたので、乗り換えて港に連れていってもらいました。レスキューの方からは「気持ち悪くないか?」「寒くないか?」と体調を心配する声をかけてもらって、最初は水上バイクの後ろに付いているウェイクボード(ライフスレッド)につかまるよう言われたんです。でも、海水を飲んで気持ちが悪かったので、水上バイクの後部座席に座らせてもらいました。フローティングベストを着た状態でホールドされると、けっこうきつかったので。
港に着いてホッとした?
いや……。最初に思ったのは、「迷惑をかけてしまった」でしたね。すごくたくさんの人が動いてくれていたので、「これで助かった」という気持ちはなかったです。命の危険を感じるピークは過ぎていたというか。
ピークが過ぎたとは?
少し沖に出たときに朝日が見えたんですね。そのとき、「きれいだな」「生きているな」と思って。身の危険を感じたのは落ちた瞬間が一番で、それを乗り越えて沖で浮いていたときは、だいぶ落ち着いていたんだと思います。