チキンにターキーといった豪華な肉料理が揃うイメージのクリスマスディナー。しかし所変われば品変わる、海外にはちょっと意外な食卓でクリスマスを祝う地域もあります。
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断食とは「魚を食べる」こと!?
皆さんは「断食」と聞くとどんな行為を思い浮かべるでしょうか。最近流行りのダイエット「プチ断食」を連想される人もいるかも知れませんが、多くの人はイスラム教徒が行う行事やブッダが修行中に行った苦行のような、宗教と関連するものを連想するのではないでしょうか。
世界三大宗教の一つ「キリスト教」でも断食は存在します。イエス・キリストが荒野で40日間の断食をしたことにちなみ、敬虔なカトリック教徒を中心に断食を実施する人たちがいるのです。
ただし、キリスト教の断食は我々が想像するものとはちょっと異なり「豪華な食事を控え、質素なものを少し食べる」といった形が近いです。カトリック信者が多いヨーロッパでは日ごろの食卓は肉料理が多く振る舞われるのですが、断食の際は肉は食べるべきではないと考えられており、その際はかわりに「魚料理」が振る舞われることが多いのだそうです。
我々日本人からすると「肉を食べず魚を食べること」が断食になるというのはちょっとわかりにくい感覚ですが、そもそも日本の刺身や寿司のような「魚のごちそう」があまり多くないことを考えれば納得できるかもしれません。
クリスマスイブにサカナを食べるワケ
キリスト教徒が多く、中でもカトリックが多数派を占める国の一つイタリアでも、魚は宗教上大切な食材。断食の日の食卓には魚料理が並びます。
そして、キリスト教でも最も大切な日「クリスマス」の前の日、つまりクリスマスイブもこの断食が行われる日なのです。したがって、イタリアではクリスマスイブの夜は日本みたいにローストチキンや七面鳥のような豪勢な料理が並ぶことはなく、”質素な”魚料理を食べることになります。
加えて、キリスト教徒にとって「魚」は宗教上大切なアイコンでもあります。というのが、キリスト教の教義を簡単に言い表した「イエスキリスト、神の子、救世主」という意味のギリシア語の、単語の頭文字を並べると「魚」という単語になるため。これもまた、イタリア人がクリスマスに魚を食べる理由の一つなのだそうです。
イタリアのイブに欠かせない魚とは
さて、そんなイタリアでは、古くから「クリスマスに食べるべき7つの魚介類」というものがあったそうです。
ただしこの「7つの魚介類」というのは別にかっちりと決まっていたというわけではなく、どちらかというと「なんでもいいから7つ食べよう」みたいな感じだったそうです。キリスト教では7という数字が神秘的で大事なものという考えがあり、それになぞらえたというわけです。
現在のイタリアでは、イカ、タラ、エビ、ムール貝やアサリなどの貝がクリスマスの食卓を彩ります。ちょっと変わったところでは「ウナギ」もクリスマスに欠かせないと考える人が多く、盛んに食べられています。
これはウナギが、キリスト教において「原罪」を人にもたらすきっかけになった「縁起の悪い生き物」である「蛇」に似ているために、ウナギを食べることで悪い蛇が寄ってこないようにする、というおまじないのような意味合いがあるようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>