水中に生息する魚の中にも植物食性のものは少なくありませんが「果物を食べるものがいる」と聞くとちょっと驚く人もいるかもしれません。
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スイカを食べるクロダイ
夏を代表する果物と言えば、やっぱりスイカ。あの真っ赤な果肉と水分たっぷりのジューシーな甘さは、暑い盛りに最高のデザートです。某社が実施したインターネットアンケートでも、夏に食べたい果物ランキングでスイカが圧倒的1位を獲得したそうです。
そんな大人気のスイカですが、実は魚の中にもこれを好むものがいます。有名なものがクロダイでしょう。魚の中でも特に幅広い食性を持つことで知られるクロダイですが、特定の地域の個体群はスイカを好んで食べることが知られています。
そのような地域では、クロダイ釣りの餌にスイカが用いられることもあります。スイカの果汁を吸わせたぬかやパン粉が寄せ餌としての効果をもつほどで、彼らがよほどスイカが好きなのだとわかります。
ミカンで釣れる磯の魚
果物を好んで食べるのは、このクロダイだけではありません。磯釣りの最も人気なターゲットであるメジナも、地域によっては果物を好んで食べているようです。
伊豆半島では急斜面を生かした柑橘類の生産が盛んですが、同地域のメジナ釣りではミカンを餌に用いる文化がかつてありました。このあたりではメジナをクシロと呼ぶことから「ミカンクシロ釣り」と呼ばれていたそうです。
メジナはもともと植物食性が強い魚で、ホウレン草やノリなどの餌で釣れることもあるほか、上記のクロダイスイカ釣りの外道としても知られます。この地域で廃棄されたミカンが海に流出し、それを食べることでミカンの味の良さを知った個体群がいるのかもしれません。
まだまだいる「フルーツ好き」の魚
クロダイやメジナのほかにも、木の実を使って捕獲される魚がいます。その一つがコイ。雑食性が強いコイは、川面に落ちてきた木の実を食べることが知られています。
彼らがとくに好むのが、水辺に多く生えており、初夏に実をつけるクワ(桑)。そのためクワの実の時期に、これを餌にしてコイを釣るという文化が各地にあります。
また海外には「モロコット」という木の実を好んで食べることからモロコットと呼ばれる魚(観賞魚で人気のコロソマの一種)がいます。1mをはるかに超える魚ですが、小さな木の実を好んで食べるのだそうです。なお飼育個体はホウレン草などを食べさせるそうです。
そういえば以前、印旛沼でアメリカナマズを釣っていたら、釣れたナマズが熟したアンズの実を吐き出したことがありました。フルーツは柔らかくて糖分が多く、意外と多くの魚たちにとってもごちそうとなっているのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>