魚の名前には、「真」「大」「黒」などといった様々な接頭辞がつきますが、その中に「どんな理由でこの接頭辞がつけられたのか」が不明というユニークなものがあります。
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魚の不思議な接頭辞「テンジク」
日本語において、魚の名前には非常に様々な接頭辞がつけられます。代表的なものが代表種であることを表す「マ」。マダイ、マアジ、マゴチなどがあります。
またそれ以外にも、色を表すもの(クロ〇〇、アカ〇〇、キ〇〇など)がつく魚名は非常に多いです。またあるいは大きさを表すもの(オオ〇〇、コ〇〇、オニ〇〇、ヒメ〇〇)も星の数ほどあります。
そのような接頭辞類のなかで、いくつかの魚に共通してつけられた、とある不思議な接頭辞が存在します。それは「テンジク」です。
そもそも天竺とは?
テンジクは漢字で書くと「天竺」。これは実は「インド」を表す古い言葉です。
我が国では仏教の伝来と広まりとともに、仏教の発祥地であるインドを意味する天竺という言葉や、その概念も広く知られるようになりました。
ただし、この天竺という言葉はただインドという国を表すのではなく「はるか遠い国」「決してたどり着けない場所」という意味をも持っていました。飛行機も車も存在しない時代、インドという国は日本の人にとってあまりにも遠く、実在しながらも幻と呼べるような存在だったからです。
そんな言葉がなぜ魚の名前に用いられるようになったのか、理由は残念ながらはっきりとはしていないようです。
テンジクがつく魚たち
そんな「テンジク」が名前につく魚ですが、「テンジクダイ」「テンジクガレイ」「テンジクイサキ」「テンジクタチ」などが存在します。
面白いことに、テンジクタチを除くと、いずれもタイ、カレイ、イサキとは別のグループに属しています。例えばテンジクダイはタイ科ではなく、エサ取りとして有名なネンブツダイを含むテンジクダイ科に属します。同様にテンジクガレイはカレイ科ではなくヒラメ科、テンジクイサキはイスズミ科です。
グループだけでなく、テンジクダイやテンジクガレイは本家よりも遥かに小さく、またテンジクガレイは磯臭さが強いことで知られる魚であり、その価値もまた本家に遥かに及びません。
これら「テンジク」がつく魚同士の間に共通点は全く無く、漁獲される場所や環境すらバラバラです。いったいテンジクとはどういう意味なのか、なぜこれらの魚につけられたのか、魚好きとしては非常に気になります。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>