磯や堤防に貼り付いていて、誰でも簡単に採取できる「カサガイ」。知る人ぞ知る美味なこの貝で作られる郷土料理があります。
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砂浜じゃなくても「潮干狩り」?
皆様は「潮干狩り」と聞くとどんなアクティビティを想像されるでしょうか。きっと砂浜にしゃがみ込み、熊手やスコップで砂を掘り返して二枚貝を採る、といったものではないかと思います。
しかし、潮干狩りという言葉を大きく捉えれば「潮が引いているときに海の生き物を採る」ということになり、つまり砂浜でなくても良いということになります。
実際、浅い岩礁帯や堤防際の石積みなど、潮が引いたときに多くの生き物と出会える場所はあります。そういったところで美味しい生き物を捕まえるのはとても楽しいです。
とって楽しく食べて美味しい「磯の小物」
浅い岩礁帯に生息する生物の中で、誰でも簡単に採って食べられるものは古くから「磯の小物」と呼ばれてきました。
そのようなものの中にはニシガイやクボガイのような巻き貝、カメノテやフジツボのような甲殻類、そしてマツバガイやヨメガカサのようなカサガイ類などがあります。いずれも酒蒸しや味噌汁などの料理で美味しく食べることができます。
ただし、磯にいる生き物の中にもアワビやサザエ、トコブシ、バテイラ(シッタカ)などのように漁業権が指定されているものがあります。このようなものは無許可で採取すると密漁になってしまうため注意が必要です。
また事実上「磯の小物」そのものを採ることができない場所も、西日本には少なからずあるようです。採取前にあらかじめ自治体などに採取地の許可状況を電話やメールで確認するのが無難でしょう。
カサガイで作る「ごちそう」とは?
そんな「磯の小物」の代表格と言えるのが上記のカサガイ類。岩に貼り付いて表面の藻類を食べているこれらの貝は、ドライバーのような細長い道具があれば簡単に岩から剥がすことができます。
その味はアワビをちょっと硬くし、サザエのような磯の香りをまぶしたような感じで非常に美味。多くの地域で酒蒸しやバターソテーにして食べられていますが、これを郷土料理の材料に用いる地域があります。
それは山陰地方にある島根県。当地ではカサガイ類のことを西の地域でベベ、東の地域ではボベと呼んでいるのですが、これと根菜類などをご飯に炊き込み「ベベ飯(ボベ飯)」という料理を作ります。
このベベ飯、貝から出た出汁がご飯に染み込み、硬かったはずの身はじっくり煮られることで柔らかくなっていて想像を超えてくる美味です。どちらかというと小さめのカサガイで作ったほうが美味しくなるようです。気になった方はぜひ、島根の食文化に思いを馳せつつ作ってみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>