アメリカで海洋生物の集団中毒事故が発生。この原因物質は、実は我々ヒトにも被害をもたらすことがあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
アシカが大量に漂着
先月末、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスの沿岸で、アシカが大量に打ち上げられるという事件が発生しました。アシカはいずれも弱っていたり、また死んでしまった個体も少なくないといいます。
同州では、北部のサンタバーバラ郡とベンチュラ郡でも、今月上旬までにアシカとイルカの死骸がいずれも100頭以上、弱っているアシカは300頭ほどが打ち上げられたということです。
「ドウモイ酸」による中毒
今回打ち上げられたこれらの生物は、有毒物質に汚染された餌を食べ、食中毒を起こしたとみられています。その物質とは神経毒の一種「ドウモイ酸」です。
ドウモイ酸は植物プランクトンの一種である珪藻類によって生成されるもので、それを食べた動物プランクトンや、さらにそれを食べる魚たちの体内で濃縮されていきます。そのようなドウモイ酸に汚染された魚類を海洋哺乳類が食べると、中毒症状が発生します。
ドウモイ酸中毒にかかった哺乳類はさまざまな異常行動がみられるほか、攻撃的になったり、あるいは逆にぼんやりして動かなくなったりすることもあるそうです。そして重症化すると死に至ります。
ドウモイ酸による海洋生物の中毒はしばしば発生しますが、今年は中毒個体数が例年を上回っており、何らかの要因によってドウモイ酸を生成するプランクトンが増加したのではないかと考えられています。
記憶喪失系貝毒の原因にも
このドウモイ酸による中毒は、実は我々ヒトにとっても対岸の火事ではありません。というのも、ドウモイ酸はいわゆる「貝毒」の原因成分のひとつだからです。
貝毒とは、毒性分を蓄積した貝(主に二枚貝)を食べることによって中毒してしまうというもの。プランクトンであるドウモイ酸生成藻類を二枚貝が食べ、それによって毒化した貝をヒトが食べることで中毒が起こります。
ドウモイ酸による貝毒は「記憶喪失系貝毒」と呼ばれ、重症患者になると記憶喪失や混乱、昏睡から死に至ることもあります。軽症でも食後数時間以内に吐気、嘔吐、腹痛、頭痛、下痢などの症状が発生します。
なお、このドウモイ酸による貝毒の事故は、我が国ではこれまで発生したことがありません。またこれに限らず貝毒が発生するとすぐに情報が公開されるため、被害を未然に防ぐことができるようになっています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>