突如発生し、漁業やレジャーに大きな被害をもたらす貝毒。しかしそれに対する「農薬」が開発されるかもしれません。貝毒の原因となる毒化プランクトンに寄生する「アメーボフリア」が鍵を握っているようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
貝毒を駆除する微生物
気温の高い時期になるとしばしば発生し、漁業や海洋レジャーに悪影響を及ぼす貝毒。しかしこの度、貝毒を駆除する微生物の新種が発見され、ニュースとなっています。
その微生物は「アメーボフリア」と呼ばれるプランクトンの一種。東北大などの研究グループが、大阪湾の海水中から2019年に発見していたものが新種と確認され、発表されたものです。
このアメーボフリア、一体どのようなメカニズムで貝毒を駆除してくれるのでしょうか。
誤解が多い貝毒
そもそもの話ですが、貝毒というものについて、多くの人がちょっとした勘違いをしています。そしておそらく一番多い勘違いは「貝毒は貝が作り出した毒である」というものでしょう。
貝毒は貝が作り出した毒ではなく、貝の餌となるプランクトンが時期や水温、塩分濃度、栄養塩などの影響で毒性を帯び、それを食べた貝が毒を持ってしまった状態のことを指します。そのためプランクトン食性の貝(主に二枚貝)にのみ発生します。
イモガイやホラガイ類のように、自分の体内で生成あるいは合成した有毒成分を持つ巻き貝もありますが、このようなものの毒は貝毒とは呼ばれません。
またこの他に「貝毒は特定の水域で一年中発生している」という誤解も多くなっています。プランクトンの毒化が起こっていない時期は貝毒も発生せず、そのため低水温期に発生することはあまり多くはありません。
貝毒を駆除するメカニズム
今回発見された微生物「アメーボフリア」は、貝毒原因プランクトンに寄生するという生態を持ちます。彼らは寄生したプランクトンの細胞内で増殖し、数日後、細胞を突き破って飛び出します。宿主となったプランクトンは死に至ります。
研究時、大阪湾海水中の貝毒原因プランクトンの密度が最大になった後を追うように当該アメーボフリアも増加し、その後プランクトンが急減したのが発見のきっかけになったそうです。室内での培養実験では、新種は98%の貝毒原因プランクトンに寄生し、3日以内に死滅させたといいます。
今後はこのアメーボフリアの発生条件を確定させ、貝毒の発生規模や収束時期の予測技術の開発を目指すとのこと。貝毒に対する「生物農薬」としての活用にも期待が集まっています。(『貝毒を駆除する新種の微生物発見、原因となるプランクトンを死滅させる』読売新聞オンライン 2022.4.1)
<脇本 哲朗/サカナ研究所>