高級魚の代表格・トラフグが福島の海で大漁。これで庶民にも天然トラフグが少しは食べやすくなるかと思いきや……残念ながらそうは問屋が卸さないようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
福島でトラフグが記録的大漁
福島県の北東部に位置し、太平洋に面する相双地区。この地域の港で昨年9~12月に水揚げされたトラフグが合計33tに上ることが判明し、ニュースになっています。
この数値は過去一であった昨年同期の24.4tを8.6tも上回るもので、昨年に続き今年も全国トップクラスの水揚げ量なのだそうです。
当地では2019年ごろからトラフグを対象としたはえ縄漁が始まったばかりの新興産地ですが、同年9~12月は2t弱、翌20年同期は5t強と毎年倍以上の増加を続けています。
なぜ豊漁に?
農林水産省の統計によると、トラフグを始めとしたフグ類の漁獲量は、東北地方の宮城県で21年までの5年連続、青森県でも19、20年に100t超を記録。間の岩手県でも19、20年にそれぞれ100t近くの水揚げがあり、キロ単価が高いこともあって主要漁獲物の一つになりつつあります。
トラフグはもともと南方系の魚で、主に日本海西部や瀬戸内海、東シナ海、遠州灘に分布し、関東以北では少ないとされてきました。しかし近年の温暖化などで生息域を太平洋北部に広げてきた可能性が指摘されています。
また、実はもともと少なからず生息していたものの、狙う漁師がおらず水揚げもなかったものが、漁業が始まったことで「自分も狙おう」と思う漁師が増えた結果、さらに水揚げが増えていっているという可能性もあるようです。いずれにしても状況的に、今後もしばらくは豊漁が期待できるとみられます。
それでも資源量は減少?
これまで獲れなかった場所でそれだけ獲れるようになっているならば、さしもの高級魚トラフグも、今後は価格が下がって庶民の口にも入りやすくなるのでは……と期待する人もいるかもしれません。しかし残念ながら、今後しばらくはトラフグの価格が下がることはないと見られています。
実はトラフグは、東北など新産地での水揚げが増える一方で、これまでの名産地であった東シナ海や日本海西部では著しい不漁が続いているのです。不漁の理由としては乱獲や稚魚の成育環境の破壊、温暖化や海流変化の影響が指摘されていますがはっきりしておらず、水揚げの減少を止められていないままなのです。
これらの産地に代わって近年名産地となってきたのが愛知~静岡沖合の遠州灘なのですが、こちらも前途は多難。というのは、一昨年ごろから同じフグの一種であるサバフグが増加しており、これがトラフグの漁具を噛み切ってしまう被害が多発しているのです。なおサバフグの増加にもまた温暖化の影響があるとされており、今後も被害が増えることこそあれ、減ることは考えにくいです。
このように、せっかく東北での水揚げが増えても、かつての名産地がいずれも苦戦しており、全体としてはトラフグの水揚げは減少傾向にあります。天然トラフグが安価に食べられるようになる日が来るのは、まだはるか先になりそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>