「一番美味しい時期」を表す「旬」ですが、食用魚の中には、いくつかの異なった「旬」をもつものがあります。これは一体なぜなのでしょうか。
(アイキャッチ画像出展:PhotoAC)
日本人は魚卵が大好き
日本人は、魚の身と同様、もしくはそれ以上に「魚卵」を好む民族だといえます。そのためサワラのように、身が美味しい時期と抱卵期の2つの「旬」がある魚は多いです。
例えばカレイ。高級魚として知られるヒラメと比べ、やや庶民的な魚として扱われることが多いカレイは、古くから惣菜魚と考えられてきました。
塩焼きや煮付けなどの加熱料理で食べられることが多いのですが、そのような料理ではカレイの卵巣の味はひときわよく感じます。そのため卵巣が入っている個体が珍重され、抱卵期である冬が旬とされている地域が多いです。
しかし、江戸時代からその味の良さが知られている大分県のブランドカレイ「城下かれい」は、刺身で食べるのを是とするため、身が太って美味しくなる夏が旬とされています。カレイは産卵期には身がやせ細ってしまうため、刺身には向かないのです。
漁獲のしやすさが基準のことも
このほか、やや深いところに散らばって棲息している夏のカレイに比べ、産卵で浅場に集ってくる冬のカレイは漁獲がまとまりやすく、流通量が増えます。同様の事例は瀬戸内海のマダイ(産卵期の春にまとめて漁獲される)などにも見られ、このような時期を旬だと考える例もあるようです。
様々な「旬」を楽しもう
料理によって、種類によって、なによりもそれを食べる人によって、魚の旬の考え方は変わるということがいえます。「身の味が良い」という考え方も、例えば関東の人が好む脂が乗った魚を、関西のさっぱりとしたものを好む地域で振る舞っても良い評価が得られない可能性はあります。
また、魚についてあまり詳しくない人と話していると「冬になればどんな魚も脂が乗る」という誤解があることに気づきます。スズキやマアジ、カサゴなど、メジャーな魚でも真夏に脂がよく乗るものは少なくありません。
「旬の魚を買いたい」と思うとき、まずは先入観を取り除いて、その土地における魚の習性を調べることが大切です。そのうえで「どうやって食べたいのか」を意識して、その用途にあったものを選ぶようにすれば、より美味しくその魚を楽しむことができるのではないでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>