トンカチのような形の頭を持つシュモクザメ。その姿は一度見ただけで強い印象を残します。そして「どうしてこんな形をしているんだろう」と不思議に思うでしょう。この記事では、シュモクザメの頭の形の秘密に迫ります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
シュモクザメの名前は頭の形から
シュモク(撞木)とは仏具の一種で、鐘を打ち鳴らすためのT字型の棒のことです。
英名では”Hammer head shark”(金槌頭のサメ)と呼ばれており、やはり、その頭の形が一番の特徴です。
シュモクザメは全部で9種類
今日、海には9種類のシュモクザメがいることがわかっています。どの種類もこの金槌頭を持っていますが、種類ごとに違いがあります。違いの一つは、体の大きさに対する頭の比率です。
例えば、インドシュモクザメは頭の比率が高く、頭でっかちな見た目をしていますが、ウチワシュモクザメは頭の比率が低く、小さい頭をしています。
どうしてこの頭の形になったのか?
このように頭の大きさに違いがあることから、古くは頭の小さいシュモクザメがいて、段々と頭が大きく進化していたのだろうと考えられていました。
しかし、シュモクザメのDNAを検証した研究で意外な事実が判明。それは、古い種類ほど大きな頭を持ち、新しい種類ほど頭が小さいという、当初の仮説とは全く反対の結果でした。
生き物の進化は、ある環境で暮らしやすいように少しずつ変化するイメージを持つことが多いと思います。しかし、稀に突然変異で現れた、普通なら奇形とされるような特徴が偶然にも生存に有利で、それが優先される場合があります。
シュモクザメには、これが起きたのだと一部の研究では考えられています。
シュモクザメの頭がもつメリット4つ
上記に基づくと、シュモクザメは生存するうえでメリットがあってあの頭の形をしていることがわかります。
この項ではシュモクザメの頭がもつメリットを4つ解説します。
視野の広さ
シュモクザメの目は頭部の両端に位置し、これにより広範囲の視野を確保できます。広い視野で捕食者からの攻撃を早く察知できるほか、獲物を探すときも有利です。
電気需要感覚の向上
シュモクザメは広い視野を持ちますが、その代わりに視差を利用して距離を図ることができません。それを補う役割として、このひらべったい頭部にはロレンチーニ器官と呼ばれるセンサーがあります。
これは微弱な電場を感知するための器官であり、海底に隠れた獲物や動いている魚がどこにいるのかを察知するのに役立ちます。このロレンチーニ器官はシュモクザメ以外のサメやエイにもありますが、シュモクザメのロレンチーニ器官は特に発達しています。
頭部が左右に広がり、そこに器官が並んでいることで、この感知能力がさらに向上すると考えられています。
運動性能の向上
シュモクザメの頭部は、横に広がった翼のような形をしているため、俊敏に方向転換ができ、獲物を追い詰める際や逃げる際に有利だと考えられています。
摂食行動の効率化
シュモクザメの頭部は餌となる魚群を効率的に包囲し、捕食するのに適しています。特に底生生物を捕らえる際に広い頭部を使って砂を掘り起こし、隠れている獲物を探し出すことができます。
また、大好物のエイを頭で海底に押し付け、食べるという行為も見られています。ちょっとこわいですね。
ハンマーリバーとも呼ばれる
かっこいい見た目で不思議がいっぱいでシュモクザメ。日本にあるダイビングスポットでは南伊豆の神子元が有名です。
シュモクザメは群れて泳ぐことで知られており、その姿はハンマーリバーと呼ばれています。これは、自然で起こる磁場に惹きつけられ集団で泳いでいると言われています。
水族館で展示されていることもあるので、ダイビングに行けない人も観察することができますよ。
ぜひ、水族館やダイビングでシュモクザメと出会い、進化の秘密が詰まった神秘的な頭の形を眺めてみてはいかがでしょうか。
<百葉/サカナトライター>