食卓に欠かせない人気の食用魚・タチウオ。「幽霊魚」と言われることもあるほど神出鬼没な魚です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
名産地大分でタチウオ漁がピンチ
知名度では日本屈指の魚であるタチウオ。細長く偏平で銀色に輝く体形を太刀になぞらえた、もしくは水中で縦になってホバリング遊泳をするところが「立ち泳ぎ」しているように見えるのが名前の由来です。
特殊な体形をしており小骨も多いですが、身離れがよく食べやすいこと、淡白ながら旨味があり脂もよく乗ることから食用魚として人気が高い魚ですが、実はいまその漁場に異変が起こっています。
タチウオ名産地のひとつとして知られ、「くにさき銀たち」「臼杵たちうお」などのブランドがある大分県。2007年には4000tを超える水揚げがあった当県ですが、2021年度の水揚げは198t。14年で20分の1になってしまったといいます。
豊予海峡を挟んで対岸の愛媛県でも水揚げが激減しており、海域全体で資源量の著しい現象が起きていると考えられています。
タチウオが減る海増える海
実は、タチウオ水揚げの減少が起こっているのは大分や愛媛だけではありません。関西における名産地のひとつであった和歌山県でも、大分のようなドラスティックな変化ではないですが、ここ数年は水揚げの漸減が続いています。
また、対馬海峡を挟んだ隣の国・韓国でも昨年ごろよりタチウオ水揚げの減少が叫ばれており、しばしば報道されています。韓国ではタチウオはまさに国民魚と呼べる存在であり、その水揚げは国民的な関心ごととなっているようです。
その一方で、わが国では長崎県や熊本県、宮城県などでタチウオの水揚げは増加傾向にあり、これらの産地から東京・豊洲に入荷する量も増えています。魚群が突然現れたりいなくなったりすることから、釣りの世界では「幽霊魚」とも呼ばれるタチウオですが、漁業の現場でもその呼び名にふさわしい状況となっています。
全体としては「危機的な資源」
実際のところ、総合的に見てタチウオの資源量は潤沢であると言えるのでしょうか。
上記の大分は2007年時点で4000t強のタチウオの水揚げがありましたが、実は1984年時点では7000t以上の水揚げがありました。したがって40年弱で水揚げは35分の1に激減しており、壊滅というべき状況です。愛媛でも2008年には3200tの水揚げがあったものが2021年には270t弱となっており、この海域では漁を続けられなくなる可能性があると言わざるを得ないでしょう。
一方、増えたという長崎県でも近年の水揚げは1000t程度、宮城も500tほどであり、合わせたところで上記2県の減少分にははるかに及びません。これら以外の産地を足し合わせても、全国的な水揚げはここ数年大きく減少しているというのが実情です。
大分では値のつかない小型個体も根こそぎ採ってしまう漁師がいることが問題となっているそうです。タチウオはブリやヒラメなど他の食用魚と違い、稚魚を育成する技術が確立されていないため、放流で資源を増やすことも難しい魚。今のままでは国産の美味しいタチウオは食べられなくなってしまう日が来るかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>