入口が狭く奥が広い入江である東京湾。内湾である川崎エリアで熱帯魚が確認されました。近年の黒潮大蛇行が理由により、東京湾では急激に温暖化が進んでいるようです。
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川崎で熱帯魚が見つかる
川崎市環境局環境総合研究所は先月11日、川崎港の一部である東扇島地域周辺海域で生物調査を実施した結果、3種類の魚を初めて確認したと発表しました。
そのうちの1種である「クツワハゼ」は、これまでも東京湾での生息は確認されていましたが、外洋に面した東京外湾でのことであり、内湾のかつ湾奥部で確認されたのは非常にレアであるといいます。
このほか南方の暖かい海に生息し、東京湾の環境では適応が難しいと考えられていた「セグロチョウチョウウオ」や「カスミフグ」も初めて発見されました。
東京湾でサンゴも増殖中
これらの魚が東京湾の奥部にある川崎港で発見されたのは、東京湾の水温が上昇していることが原因とみられています。そしてその変化は湾奥だけでなく、湾の入口付近ではよりドラスティックに環境が変化しています。
いま、千葉県沖の東京湾に、まるで南の島のようなサンゴ礁が見られるところがあるのをご存知でしょうか。そこではエンタクミドリイシサンゴというテーブルサンゴがあちこちで見られ、その上にはソラスズメダイなどの熱帯魚然とした魚が泳いでいるといいます。
エンタクミドリイシサンゴは最低水温が14℃を下回ると生息することができず、これまで東京湾は生息適地ではありませんでした。それがここ数年でいきなり定着し、数も増やしている状況です。
黒潮大蛇行の影響か
実は日本沿岸は、世界的に見ても海洋温暖化の著しい海域です。そしてそのなかでも、東京湾口と伊勢湾口は変化が大きいことがわかっています。
この水温上昇には「黒潮大蛇行」という現象が影響していると見られています。
日本南岸を東流する海流である「黒潮」こと日本海流は、温暖な海水を赤道付近から北に向けて運んでいます。この流れはしばしば大きく蛇行し、我が国の太平洋側沿岸水温に大きな影響を与えます。蛇行によってできた分流が東京湾口に直撃しており、温かい海水が湾内に侵入したり、湾内の海水に影響をもたらしたりしているのです。
黒潮大蛇行はこれまで数年で収まるのが通例でしたが、現在発生中の黒潮大蛇行は5年以上続いており、観測史上最長となっています。今後もし大蛇行状態がデフォルトとなれば、これまで定着できなかった南の海の生物がより増え、東京湾の生物相は大きく変わってしまうでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>