魚料理をはじめ、和食に欠かせない存在であるワサビ。しかし近い将来、美味しいワサビが手に入らなくなってしまうかもしれません。
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東京で在来ワサビの復活事業始まる
東京都心から電車で30分の距離にある閑静なベッドタウン「三鷹市」。23区に隣接する地域でありながら自然も多く、豊富な湧き水を水源とした河川がいくつも流れています。
そんな三鷹で近年「在来のワサビ」を復活させる取り組みが行われています。
ワサビと言えば、奥多摩や伊豆半島などの山深い場所で栽培されるイメージが強いですが、三鷹では江戸時代後期からその豊富な湧水を活かして「三鷹大沢わさび」というワサビの栽培が行われていました。
小ぶりながらも味が良いと評判だったという三鷹大沢わさびですが、昭和40年代頃になると三鷹市域の住宅化が進み、生産量は激減。生産農家もほぼいなくなり、その苗はごく限られた区画に残るだけとなっていたそうです。
しかし、2019年度から三鷹市の主導により、このワサビの復活プロジェクトがスタート。遺伝子調査による分析や健康な苗の手配、植え付けなどを実施しました。今後はさらに収穫体験イベントや試食会などを実施し、三鷹の在来ワサビとして知名度を高めていく予定だそうです。
ワサビと魚料理
日本料理を代表する香辛料といえるワサビ。とくに寿司や刺身など、魚料理には欠かすことのできない存在です。しかしなぜ、ワサビは魚料理と相性が良いのでしょうか。
ワサビには、辛味成分である「アリルイソチオシアネート」という物質が含まれています。これには魚の不快臭の成分である「トリメチルアミン」を打ち消す効果があり、料理に使うことで生臭みなどを抑えることができます。
またアリルイソチオシアネートは強い殺菌作用ももっており、大腸菌やカビ、黄色ブドウ球菌などといった食中毒原因菌の繁殖を抑える力も持っています。
風味の上でも、また安全な食卓のためにも、魚料理にワサビはピッタリなのです。
ワサビ生産量が激減
しかし、そんなワサビにいまピンチが訪れています。
東京近郊における一大ワサビ産地である奥多摩町。江戸の魚食文化を支え、将軍家にもワサビを献上していた歴史ある産地で、自治体単位でのワサビ生産量ランキングでも、奥多摩町は上位にランクインしています。
しかしそんな奥多摩で近年、ワサビ生産量が激減しています。冷たくきれいな水で育つワサビは、急峻な沢を拓いて栽培用の田を作る必要があるのですが、近年頻発する豪雨によって、そのワサビ田が破壊されてしまう被害が多発しているのです。
また近年とみに沢水の温度が上昇し、冷水を好むワサビの生育に悪影響が出ているという話もあります。
異常気象や水温上昇は、いずれも地球温暖化が一因であるともいわれ、現状のままではいずれ奥多摩でのワサビ栽培が困難になるかもしれないと関係者は危惧しているそうです。もちろん奥多摩のみならず 全国的にも同様の現象が起きていると考えられ、我が国でのワサビ栽培は困難になっていくのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>