ここ数年、資源量減少と並び漁業における最大の議題となっているのが「海洋温暖化」。これによる被害を受ける地域が多い一方で、恩恵を受けているところもあります。
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温暖化が漁業に与える悪影響
日本近海ではこの数十年、海洋温暖化による漁業への悪影響が様々な場面で発生しています。
中でもそれがもっとも顕著な形で露見しているのが「磯焼け」でしょう。これは、海水の高温化やそれに伴う生物層の変化で海藻がうまく育たなくなるというもので、海藻に依存する生態系が破壊されてしまいます。
この磯焼けによりワカメやコンブなどの海藻資源の不漁や、イセエビ、サザエ、アワビといった「磯根資源」と呼ばれるものの減少が起きています。
また高水温化は、太平洋岸各地のアイゴ、瀬戸内海でのナルトビエイといった高水温を好む魚の増加を引き起こし、それにより漁業資源の食害も増えてしまっているのです。
温暖化が漁業復興に寄与?
一方で、海洋温暖化の「恩恵」を受ける漁業も実は存在しています。その好例が、福島県いわき沖などでのイセエビ漁です。
温暖な海域を好むイセエビは、もともとは千葉県が漁業好適地の北限とされていました。しかし近年の海水温上昇に伴いその北限が北上、茨城沖を過ぎ、近年ついに福島沖にまで到達したのです。
昨年の福島県でのイセエビ水揚げは6tにも達したといいます。地元では漁業における震災復興の目玉魚介として、熱い視線が注がれています。
漁業はどのように適応すべきか
日本近海における海洋温暖化(海水温上昇)と、昨今対策が急がれている地球温暖化とは全く同一のものというわけではありませんが、密接な関係があるとも考えられています。したがって、地球温暖化を急に止めるのが不可能である以上、海洋温暖化もいきなり止まるということはありえません。
そのため、現在のこの傾向に、日本の漁業が適応していく必要も間違いなくあります。
例えば、北海道で一般的な漁獲物であるサケやサンマの漁獲量が減る一方で、温かい海を好むイワシやブリなどの魚が水揚げされるようになっています。しかし、これらの魚の水揚げのうち、少なからぬ量が「利用法がわからない」という理由で破棄されてしまっている現状があります。
地域の漁業は後背地での利用に支えられて存在しているものなので、いきなりこれらの魚を使え、食べろと言われてもなかなか難しいという事情があることは理解できます。ただイワシなりブリなりといった魚が美味な食用魚であるのは論をまたず、これらが獲れている以上はそれを活用していかない手はありません。
また、ギンザケやワカメ、コンブなど高水温に弱い漁獲物の養殖業も、温暖化への適応を迫られています。これについては、ギンザケは水温を一定に保てる「陸上養殖」、ワカメやコンブは高温に強い品種への転換などといった対策が行われています。
南北に長く、多種多様な水産物が漁獲・養殖される我が国。温暖化対策についても、他の地域に学び活かすことで「適応」できることがたくさんあるはずなのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>