イカをカチカチに干しあげた「スルメ」。気軽なお酒のつまみの代表ともいえる存在ですが、正月に欠かせない縁起物でもあります。
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正月の飾りに使われるスルメ
正月に飾るものと言えば鏡餅。その年の豊作を神に感謝し、来年もそうなるようにお願いするために供えるものです。
鏡餅を飾るとき、上にミカン(橙)を乗せ、稲妻のような形に切った紙(御幣)ることはよく知られています。しかし、本来はそれ以外にも飾り付けがあるということはあまり知られていないようです。
実は正式にはこれらに加え、2段の餅の間に干した昆布、そして干したイカであるスルメを挟むということになっています。
なぜスルメを挟む?
昆布が「喜ぶ」に通じることからめでたい縁起物とされていることはよく知られていますが、スルメについては意外に思う人も少なくないでしょう。実際のところはというと、スルメも伝統的な縁起物の一つです。
カチカチに干しあげたスルメは、海産物の中では貴重な「日持ちのする食材」そのことからスルメは「末永く良いことが続くように」という希望が込められたといわれます。
また「お金」のちょっと砕けた言い方で「おあし」というものがあります。スルメは足が10本もあるため「足が多い」→「おあしが多い」→「お金持ち」と連想することができ、縁起物になったという話もあります。
スルメを漢字で書くときに「寿留女」というめでたい当て字をすることなどもあり、縁起物の一つとして正月に欠かせない食材となったのだとされているのです。
縁起物だけでなく食材としても活躍
そんなスルメですが、縁起物として飾りのみならず、食材としても正月に欠かせない地域があります。
福岡県の南東部や熊本県の北東部、岡山県の北部などがそう。というのも、これらの地域ではお雑煮の出汁をスルメでとる文化があるのです。
乾物の中では比較的クセのあるにおいを持つスルメですが、しっかりと煮ると、穏やかで口当たりがよく旨味たっぷりの出汁が取れます。そのため雑煮の出汁のもととしてもぴったりなのです。
よい出汁が出る乾物は、中国などでも古くから大変珍重されるものでした。スルメの価値を最も上げている理由は、もしかするとそれなのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>