日本で最も有名な毒魚「フグ」。法律で「有毒部位」が指定されている魚ですが、しかしその有毒部位は「有毒とは限らない」のです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
愛知でフグの「有毒部位」を販売してしまう事故が発生
我が国で最も有名な有毒生物のひとつフグ。そんなフグに関するとある事故が先月末、愛知県で発生しました。それは「フグの有毒部位を誤って販売してしまった」というもの。
愛知県内のスーパーが、未処理のフグを販売してしまい、気付いた消費者が保健所に通報したことで発覚しました。フグは肝臓や卵巣などの内臓が「有毒部位」と規定されており、ごく一部の例外を除き提供することが許されていません。またそもそもこのスーパーはフグを処理するための許可も得ていなかったようです。
犠牲者が出たというわけでは(いまのところ)ないのですが、全国的に報じられて大きなニュースとなりました。
中毒の危険はない?
このニュースを聞いて「猛毒のフグの有毒部位を売るなんて!」と憤りたくなる人もいるかもしれませんが、報道へのコメントを見る限りは擁護の声も少なくありません。
今回誤って売られたフグは報道では「サバフグ」とされていましたが、写真を見る限りはシロサバフグであるように見えます。シロサバフグはフグの中では珍しく全身が無毒であり、丸ごと調理されて食べられることもあります。そのため漁師さんの中には丸ごと渡してくれるような人も少なくないのです。
ただしシロサバフグによく似て内臓に毒のあるクロサバフグや、全身に毒を持つドクサバフグ、そしてこれらの雑種も存在が確認されているので、フグに詳しくない人が丸ごと料理して食べるのはやはりお薦めはできません。
有毒じゃないのに「有毒部位」とは
今回の事故で問題となっているのは「毒のフグを売ったこと」ではなく「フグの有毒部位を売ったこと」です。というのも、フグはそこに毒を持つ持たないにかかわらず、食品衛生法で規定された「有毒部位」を販売してはいけないのです。
フグ毒はフグが食べたものから獲得されるので、無毒の飼料を与え続けた養殖のフグは全身にほとんど毒を持たないと考えられています。しかしそんな養殖個体でも、やはり「有毒部位」は販売してはいけないというルールになっています。
今回のシロサバフグを始め、全身が無毒で丸ごと調理されるフグはいくつか知られており、それらは度々同様の「事故」を引き起こします。法は法なので守らなくてはいけませんが、「有毒部位」という言葉の不適切さがこのような事故を引き起こしているという側面もあるのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>