私たちの生活圏にかなり近いところにいるギンブナ。このギンブナ、他のサカナと違ってちょっと変わった方法で繁殖していることをご存じですか?
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ギンブナとは
ギンブナは、【コイ目・コイ科・フナ属】のサカナです。私たちの生活圏に限りなく近い身近な池や沼、流れが穏やかな河川に生息しています。
最大全長は体長は25cm程度で動物プランクトンや、付着藻類などを食べる雑食性のサカナです。
アジアの地域では日本以外に中国、台湾、朝鮮半島に分布しています。
ギンブナはほとんどがメス
しかし、このギンブナはそのほとんどがメスであり、場所によって差はあるものの、オスがほとんど見つからない地域もあるようです。
しかし、サカナに詳しい方なら良くお分りだと思いますが、ギンブナはどこにでもいますし、その数も非常に多いということ。
オスがほとんどいないのにも関わらずたくさんいるサカナなのです。
ではオスとメスの数が極端に違うギンブナはどのようにして繁殖を行っているのでしょうか。
単為生殖で繁殖
一般的にサカナも私たち人間と同じように有性生殖を行い、オスの精子とメスの卵子が受精させることで繁殖を行っています。
しかし、極端にオスとメスの比率が違うギンブナの場合は、この一般的な有性生殖ではオスとメスが巡り合うことができず、数を増やしていくことはなかなか難しいです。
ではどうするのか。
答えから言うと、ギンブナは『無性生殖に限りなく近い単為生殖』を行って繁殖を行っています。
無性生殖というのは、オスとメスは必要なく、生物が自分自身だけで子孫を作り出す方法のことで、他の個体との交配がなくても子孫を生むことができるということです。
例えば、植物の場合は茎や根から新しい芽を出すことで、親の個体と同じ遺伝子を持った子孫を生み出すことができます。
これが無性生殖です。
他のフナ類の精子でOK?
ギンブナはオスとメスの比率がかなりメスに偏っているため、すこし変わった有性生殖を行います。
ギンブナの場合、なんと驚くことに卵の発生に使われる精子が、ギンブナのオスのものだけではなく、別のフナ類のサカナのものでも良いのです。
この時、精子からの刺激だけが必要となるため、オスの精子の遺伝情報は使われていません。このため精子の遺伝情報は別種のものであっても次世代には何の影響も与えないのです。
ですので、ギンブナは精子は必要とするものの、遺伝情報は使われないため産まれてくるギンブナは親のギンブナと同じ遺伝子をもったクローンのような存在なのです。
このことから「無性生殖に限りなく近い単為生殖」を行うサカナと表現されているのです。
この方法でのメリット
この方法を用いることでギンブナはわざわざ同種のオスを探す手間が省けます。
さらに、自分の遺伝子を高確率で残すこともできるため非常に戦略的な繁殖方法といえるでしょう。
また、自分のクローンばかり作って、集団内がメスばかりになってしまったとしても、クローンの子供もまた、別種のオスの精子を使うことができるので、オスがいなくても困るということはないのです。
この方法でのデメリット
一方ですべて同じ遺伝情報を持つという事はメリットにもなりますがデメリットにもなります。
例えば、この方法での繁殖では遺伝的多様性に乏しくなりがちで、環境が変化したときの適応力が低下したり、病原菌に感染すると全滅してしまう危険性が高くなります。
簡単に増えていける一方で、同じ原因で全滅してしまうというのはかなりのリスクと言えるでしょう。
クローンを作って増えるサカナ
メスの遺伝情報だけで増えていけるギンブナはすべて同じ遺伝情報をもったまさにクローンと言えるでしょう。
この方法での繁殖が確認されているのはギンブナだけです。
この非常にユニークな手法を使うことでギンブナは日本全国に分布していると思うと、かなり戦略的で効率の良い手法だったということが分かりますね。
<近藤 俊/サカナ研究所>