水の中や砂の中に生息する水生生物たち。水がないと生きていけないはずの彼らが、空を飛んで生息域を拡げていることがわかってきました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
二枚貝が空を飛んだ
水の底を這い回り静かに暮らす、というイメージのある巻き貝。しかし先日、そんなイメージを覆す発見がありました。
我孫子市鳥の博物館と東北大学の研究グループが発見したのはなんと「貝が空を飛んで大陸間を移動する」という事実。しかしもちろん「翼の生えた貝がいる」ということではありません。
いったいどういうことなのでしょうか。
鳥の力で空を飛ぶ
研究チームは、飛来した渡り鳥を捕獲し付着物を調べるという調査の中で、日本に飛来した渡り鳥の一種「オオジシギ」の体表に付着した巻貝を発見。調べた結果、付着していた巻貝はオセアニアからフィリピンにかけて分布し、日本では記録のない淡水巻貝であることが明らかになりました。
オオジシギはオセアニアより飛来する鳥であるため、この巻貝が生息地に飛来したオオジシギにくっつき、運ばれる形で日本にやってきたと推測されたのです。実は貝が「鳥を介して長距離移動するのではないか」という仮説は以前から存在しており、今回の発見はその仮説を直接的に裏付ける形になりました。
魚も鳥で空を飛ぶ
このように、鳥の力を借りて遠距離を移動する水生生物は実は貝だけではありません。2020年には、淡水魚が鳥の力で別の水域に移動することができるのではないか、という仮説が発表されています。
この仮説が生まれるに当たり、ハンガリーの研究チームがとある実験を行っています。それは、コイの一種の受精卵を養殖のマガモに食べさせ、糞で排出された卵の生存率を調査するというもの。
その結果、のべ4000個食べさせたうち18個が完全な状態で見つかり、胚が生きていたのが12個、そして3個は孵化に至ったそうです。この結果から、ある水域で食べられた魚の卵が腸内で生き延び、食べた鳥が別の水域に移動して糞をした際にその水域で孵化し、分布を広げることができるということが強く示唆されたのです。
水生生物たちは、水鳥の力を利用して空中を移動し、繋がっていない水域へと生息域を広げることができるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>