海底から切り離され、海面を漂う海藻「流れ藻」。我々にとっては厄介な存在ですが、環境にとっては欠かせない存在でもあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
史上最大の「海藻の塊」
いま「世界最大の『海藻の塊』がアメリカ大陸沿岸に接岸しようとしている」というニュースが、世界的に話題となっていることをご存知でしょうか。
その海藻の塊は帯状になって大西洋からメキシコ湾にかけての海域を漂っており、断続的ではあるもののその長さはなんと8000kmにも及びます。これは北アメリカ大陸の東西幅の2倍に相当し、その姿は宇宙からも確認できるそうです。
これが接岸すると沿岸部やビーチが埋め尽くされてしまい、観光業や漁業に大きな影響が出ることが予測されるため、各地で不安が広がっているといいます。
「流れ藻」とは
この「海藻の塊」は、サルガッスムと呼ばれる種類で、日本では「ホンダワラ」という海藻のグループに相当します。
ホンダワラ類は成長すると数mになるのですが、やがて茎がちぎれ、潮流や波の力で海面を漂います。この状態を日本では「流れ藻」と呼び、今回確認されたものは「史上最大の流れ藻」だということもできるでしょう。
ちなみに今回「海藻の塊」が確認された海域の少し北には「サルガッソー海」と呼ばれる海域がありますが、これもサルガッスムの流れ藻が多いことからこのような名前で呼ばれています。
環境における流れ藻の「重要性」
今回の流れ藻はあまりに巨大で量が多いために恐れられていますが、実際のところ流れ藻が地球環境に及ぼすのは悪影響というよりむしろ好影響が大きいです。
まず、流れ藻は常に小さな生き物たちの隠れ家となります。流れ藻を網ですくって観察すると、ブリの子供である「モジャコ(藻雑魚)」やワタリガニの仲間、マツダイなど様々な生き物が見られます。彼らは流れ藻の隙間に身を潜めながら新天地に向かい、そこで成長し成体になります。
またちぎれながら漂う流れ藻は海面で光合成を行い、海中に溶けたCO2を吸収していきます。このような「海藻などの水生生物が吸収するCO2」をブルーカーボンと呼ぶのですが、それは陸上生物が吸収するもの(グリーンカーボン)よりも遥かに大きいことがわかっています。
加えて彼らは、水中のCO2を使って成長し、流れ藻となって他の生物の餌となることで、環境中のCO2を生物体内に炭素として固定することに貢献します。地球温暖化を食い止めるためには流れ藻の存在もまた欠かせない存在です。
流れ藻はありすぎても困りますが、ないともっと困る存在なのだといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>