「健康的な食事」の代名詞とも言える海草サラダ。スーパーでよく見かける定番食品ですが、実はこの商品名には致命的な間違いが存在しています。
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「海草サラダ」はおかしな表記?
スーパーの刺身コーナーや惣菜コーナーでしばしば見かける「海草サラダ」。普段の食生活で不足しがちなビタミンやミネラル、食物繊維を手軽かつ安価に摂取できる、現代人の強い味方です。
非常に馴染みのある商品ですが、しかし実はこの「海草サラダ」、表記としては正しいとは言えないものだというのをご存知でしょうか。
正しくは「海藻サラダ」。草ではなく「藻」という漢字を用いるのが正解です。もちろん草の字を使ってなにか罰則があったりするわけではありませんが、テレビの字幕などにおいて「海草サラダ」は明確な間違いとされ、使わないよう注意されているそうです。
「海藻」は「草」ではない
海藻はこの字の通り「藻類」と呼ばれるグループの生物です。藻類は植物ではあるものの、根・茎・葉の区別がはっきりしておらず、我々のよく知る植物たちとは構造が大きく異なっています。
海藻類の代表と言えるワカメやコンブなどは明確な根があるように見えますが、これは仮根とよばれるもので、陸上の木や草の根のように栄養を取り入れる機能はなく、ただ体を岩に固定し支えるための器官となっています。海草は成長に必要な栄養を植物体全体から摂取するので、栄養や水を運ぶための「茎」も存在しません。また繁殖は胞子で行うので、花や実をつけることもありません。
このように、海藻は我々が一般に想像する「草」とはかなり異なるもの。ノリやワカメ、ヒジキ、アオサなど「海産物として扱われる植物性食材」のほぼ全てが海藻です。そのため我々が口にするのはまず「海藻」であり、「海草」では決してないのです。
そもそも「海草」ってあるの?
では、科学的に「海草」と呼べるものは果たして存在しているのでしょうか。答えは「ある」で、海の中にある「草」もちゃんと存在します。
「海草」は一般的な陸上生物と同じ「種子植物」であるため、根・茎・葉の部分の区別ができ、花も咲かせ、種子をもつけます。このようなものの代表的に「アマモ」があります。
海中にあり、根を噛むと甘いことから「甘藻」と名付けられたのですが、現在食用にされることはなく、人間との直接的な関わりはほぼありません。一方で、魚や海棲生物にとっては欠かせない存在で、様々な生き物のすみかとなるほか、産卵場所としてもとても重要です。そのため、アマモの生える「アマモ場」と呼ばれる海域は、地域の水産関係者によって大事に保護されています。
アマモなどの海草は、藻類ではないため成長にあたり空気が必要。そのため浅い場所にしか生息できず、生息地の埋立て等により、全国的に生息数を減らしています。直接食用にはならないものの、我々の食卓を支える存在である彼らを大事にしていかないといけません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>