世界のなかで、海藻を食用にしている国は日本や韓国などごく一部。しかし今、世界中で海藻の養殖が盛んになっています。一体なぜでしょうか。
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日本は海藻の養殖が盛ん
突然ですが、日本で一番多く養殖されている食材ジャンルは一体なにか、皆さんご存知でしょうか。スーパーの鮮魚コーナーに並ぶ「養殖ブリ」「養殖マダイ」のラベルを見ていると「魚なんじゃないの!?」と思ってしまいそうですが、正解は「海藻類」です。
生産量1位はノリ
水産庁が発表したデータによれば、2020年度の養殖生産量1位は「ノリ」。生産量はおよそ29万tと、他の魚介類と比較しても圧倒的に多くなっています。このノリを含め、海藻類全体の養殖生産量は40万t弱となっており、貝類の31万t、魚類の25万tと比べ非常に多い数値となっています。
それだけでなく、2020年度の生産量は前年度と比べて14.5%増となっており、成長著しい分野でもあります。北海道のコンブ養殖など、海洋温暖化などで苦しんでいるものもあるが、全体としては今後も海藻の養殖生産量は増えていくと見られています。
世界でも海藻の養殖量増加中
海藻を食べる文化は主に東アジアに偏在しており、日本や韓国などがその中心となっています。日本のノリは量ベース、金額ベースでも非常に重要な養殖種であるといえ、世界で最も経済的に重要な養殖魚介種であるとされています。
ただしその一方で、日本の海藻養殖量は上記の通り増加しているにも関わらず、世界的に見れば我が国は海藻類の主要生産国とは言えない状況になっています。これは、中国やインドネシアといった国々で海藻の養殖生産量が激増しているためです。
他にもアジアではフィリピンや北朝鮮、南米のチリ、アフリカのタンザニアなども生産量を増加させており、主要生産国の一つとなっています。
世界のメインの用途
このデータを見ると「なるほど、いま世界中で海藻食がブームになっているのだな」と思ってしまいそうですが、実は多くの国で海藻は「そのまま食べるもの」ではありません。
海藻の生食(加工せずそのまま調理すること)が盛んなのは日本、韓国、北朝鮮と行った東アジアの一部と、ヨーロッパのごく一部です。他の地域では海藻が食材として馴染みがなく、そもそも消化しづらい食材であることもあって食用にされることはあまりありません。
ではなぜ、世界的に海藻養殖が行われ、また盛んになってきているのでしょうか。
工業用が主流
現在の海藻養殖大国であるインドネシアやフィリピンで、いま最も養殖されている海藻は「キリンサイ」というもの。これは基本的には生食されず、ほぼ全量が「カラギーナン」という成分の原料となります。
カラギーナンは食材、飲料、化粧品、薬剤などあらゆる工業で用いられる非常に重要な物質で、世界的な経済力の向上に伴い需要が増大しています。この需要に応えるために世界各国で養殖が盛んになっており、これが世界的な海藻養殖生産の増大につながっているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>