春の海の波間に漂う海藻「アカモク」。かつては嫌われ者でしたが、今は様々な点で我々の社会に欠かせない存在となっています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「アカモク」の養殖試験
神奈川県三浦市にある神奈川県水産技術センターで、いま「アカモク」という海藻の養殖試験が行われています。
同センターでは、三浦半島の付け根にある逗子市と、横浜市の南端にある金沢区の沖合に、はえ縄式のアカモク養殖場を設置。
京都府の農林水産技術センターが開発した、海水を絶えずかき混ぜる「攪拌培養式」という方法で10cm程度に育てたアカモクの苗を昨年末にはえ縄に差し込み、海に沈めて養殖を行いました。
先月11日に収穫したところ、種苗は3mほどにまで成長していたといいます。実用化に大きく前進したといえるでしょう。(『アカモク回復へ前進 逗子沖の種苗が3メートルに成長 神奈川県水産技術センターが養殖試験』カナロコ 2022.4.12)
いま注目されるアカモク
アカモクは、浅い海に多く、植物体が長くなるのが特徴の「ホンダワラ科」というグループの海藻の一種です。最大7mほどにまで成長するため「ナガモ」とも呼ばれることがあります。
アカモクの最大の特徴は、強いぬめりを持つこと。生きているときからこのぬめりがあり、調理するとより強くなるため「ハナタレ」というひどい名前で呼ぶ地域もあります。
しかし、このぬめりには昆布などのそれと同様に消化管を守る作用があり、免疫機能の向上に寄与することが研究によって判明しています。加えてミネラルや食物繊維も豊富なことから、いま健康食品として非常に注目されている存在です。
近年ではワカメやヒジキなどと同様にアカモクに漁業権が指定される海域も出ているほどで、経済的に価値の高い海藻種となっています。
アカモクは海の生き物にとっても欠かせない存在
アカモクは冬から春にかけて水深の浅い場所に繁茂し、暖かくなるとちぎれて海中を漂います。このようなものはしばしば船のスクリューに絡まるため、漁師には嫌われる存在でした。
しかし、温暖化などによると見られる「磯焼け」の進行とともに、このアカモクもまた数が減ってきており、その影響は「漁獲量の減少」という形で表出しました。
逗子市の小坪漁協では、全体の漁獲量が1989年度の398tから、2020年度は68tと6分の1程度にまで減少してしまっています。アカモクなど、ホンダワラ科の海藻は魚の産卵場所や小魚が安全に暮らしていくための場所として必要不可欠なものであり、この減少が海中の魚の減少につながっているのではないかと見られています。
今回のアカモク養殖が成功したあかつきには、育てたアカモクを海に戻して漁場の回復につなげたいとの期待もあるそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>