水産庁が「遊漁船業の在り方に関する検討会」の中間とりまとめを発表。知床観光船沈没事故を受けて、釣り船管理体制の見直しが進んでいます。今後実施される可能性がある釣り船の安全対策についてまとめました。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWS編集部)
「遊漁船業の在り方に関する検討会」
水産庁は12月16日、「遊漁船業の在り方に関する検討会」の中間とりまとめを発表しました。「遊漁船」とは「釣り船」のこと。船釣り・沖釣りを楽しむ釣り人の皆さんにとって、他人事ではありません。
今回はとりまとめの内容について整理し、釣り人の皆さんが知っておくべきトピックスをお伝えします。
なぜ今「釣り船」の安全強化を?
今年4月、北海道・知床で小型旅客船が沈没し、乗員・乗客計26名が死亡・行方不明となる事故が発生。また、近年は釣り船における事故や死傷者も増加傾向にあり、水産庁は「事故の防止・利用者の安全確保が喫緊の課題となってきている」との認識から、10月と12月に計2回の検討会を実施しました。
監督者である都道府県の対策も
今回発表された「中間とりまとめ」では、釣り船の現行制度の振り返りや現状整理のほか、今後釣り船事業者や、釣り船を監督する都道府県が取るべき対策も提示されました。
釣り船の事故が増加傾向
釣り船が関係する事故等は、過去10年間で死傷者数が計393人(うち死者数60人)。特にこの5年間で増加傾向となっています。
原因と傾向
事故の原因については「見張り不十分」などの安全管理不足が8割程度を占めているといい、検討会では「釣り」の性格上、他の船舶の近くで操業する機会が多くなる傾向が影響していると分析しています。
釣り船の現在の状況
まずは、釣り船事業者の現在の状況や取り巻く環境を整理してみましょう。
事業規模
釣り船事業者は、漁業協同組合の組合員が72%(令和3年度)で、沿岸漁業者が兼業で事業を行っているケースも多いとされています。また、1隻で運航している事業者が全体の87%であることや、5トン未満の小規模な船が全体の74%であることなどから(いずれも令和4年7月現在)、小規模・零細事業者が多いことが分かります。
安全管理
制度運用上は、釣り船には船長と遊漁船業務主任者が乗り込むこととなっていますが、上記のような事情から、実態としては99%の釣り船において、船長が遊漁船業務主任者を兼務しています。
なお、遊漁船業務主任者は、「海技士(航海)又は小型船舶操縦士の免許」「遊漁船業での1年以上の実務経験又は業務主任者による10日以上の実務研修受講」「5年ごとに遊漁船業務主任者の養成講習を修了すること」の3点をクリアする必要があります。
都道府県の監督体制
遊漁船業を営むためには、都道府県知事の登録が必須。登録有効期間は5年で都度更新が必要です。利用者の安全などを害する事実があると認める場合、都道府県知事は業務改善命令を行い、命令・処分に違反したときは登録の取り消しや業務停止命令を行うこともできます。
ただ、過去10年間で事故を起こした釣り船が、再び事故を起こす事例が30件ほど発生。「遊漁船業者の安全管理の水準を高めるには、都道府県の適切な監督を通じて違反や事故を抑止していくことが重要」である一方、「法律上、都道府県への報告義務が課せられていないことから、必ずしも全ての事故に係る報告が都道府県に対しなされている状況にはない」のが現実のようです。
利用者(釣り人)の保護
釣り船の利用者、つまり釣り人目線で言えば、自分が乗船しようとしている釣り船事業者がどのような安全対策を講じているか、過去に違反等をしたことがあるかと、いった情報は気になるところ。
しかし、現行の制度においてはこうした情報の公開に関する仕組みはありません。安全確保に関する自社の取り組みなどを自主的にホームページなどで公開している釣り船事業者は存在していますが、全体から見れば決して多くはありません。
遊漁船の団体
小規模・零細事業者が中心の遊漁船業界では、安全確保に向けた取り組みを進めていく上で団体の果たす役割は大きいですが、団体の活動自体が縮小しています。
一方で、遊漁船業者と行政、漁協等の関係者が連携し、新たな自主的な取り組みが行われているようなケース(北九州釣りいこか倶楽部)も出てきており、こうした状況を一部補うような動きもあるようです。これらの現状を踏まえ、「遊漁船業の在り方に関する検討会」の中間とりまとめでは具体的に5項目が方向性として発表されました。