二酸化炭素量増加による『海洋の酸性化』を解説 温暖化以外の問題も

二酸化炭素量増加による『海洋の酸性化』を解説 温暖化以外の問題も

地球温暖化が深刻化している現代。直接的な原因は二酸化炭素量の増加です。今回は、二酸化炭素の増加が海にもたらす影響について調べてみました。

(アイキャッチ画像撮影:TSURINEWS編集部)

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その他 サカナ研究所

二酸化炭素量増加で海が酸性化?

最近、二酸化炭素による地球温暖化が問題視されています。今では小学校や中学校の教科書でも京都議定書で先進国の温室効果ガスの排出量を減少させる取り組みなどを必ず勉強するほど地球規模の問題となっています。

二酸化炭素が増えると地表の熱が宇宙へ逃げだしにくくなってしまいます。

そうなると、サウナのような状態になり、地球の平均気温がドンドン上がってしまうことになってしまいます。

温度が上がると、

・暑い夏が増える
・台風が強くなる
・異常気象が起きる

こういった問題が増えると言われています。

私たち人間のように陸で生活する生き物からしたら、地球温暖化が二酸化炭素による一番の悪影響と言えるでしょう。

しかし、海に生息する生物からすれば、地球温暖化と同じくらい深刻な問題が他にもあります。

それが『海洋の酸性化』です。

海洋の酸性化とは

先ずは空気の性質について、少しお話します。私たちの周りにはいつ、どんな時でも空気が存在しています。

この空気には呼吸に必要な酸素や、吐いた二酸化炭素、そのほかにも窒素などさまざまな気体が集まって出来ています。そしてこの空気はある性質を持っています。

それは液体に空気が接するとその液体に空気が溶け込んでいくというものです。この現象はバケツの水などだけではなく、池や川や湖、はたまた海であろうと空気が液体に接している状態であれば起こります。

空気中の二酸化炭素が増加するということは、比例して、海へ溶け込む二酸化炭素の量が増えることを意味します。このことにより、水の性質はどんどんと酸性に傾いていきます。

この現象を『海洋の酸性化』と言います。

酸性化すると中性に近づく

もっとも、酸性化といっても、海の水が酸性になってしまうわけではありません。

もともと海水はややアルカリ性に位置しています。二酸化炭素が溶け込むことにより、ほんのすこしだけ酸性側に傾く、つまり、中性に近づくことを意味しています。

海が本当に酸性になってしまったら、おそらく大多数の生き物が生息できなくなってしまうでしょう。

しかし、ほんの僅かな変化でも、海の生き物たちにとっては非常に大きな打撃となってしまいます。

生物への影響

海洋が酸性化で大打撃を受けるのがウニやカキなどの貝類、甲殻類などです。彼らの骨格や殻は、炭酸カルシウムという物質でできています。

あくまで簡単に説明しますが、『炭酸カルシウム』は、海に溶けている「炭酸」と「カルシウム」が結びついてできています。そして、海に二酸化炭素がたくさん溶け込むと、この「炭酸」が減っていきます。海中の「炭酸」が減ってしまうと、それに比例して生物たちの成長に必要な『炭酸カルシウム』も減ってしまいます。これにより、骨格や殻を作りにくくなってしまい、成長が遅くなったり、正常な成長ができずに死んでしまったり、様々な悪影響を及ぼしてしまいます。

二酸化炭素量増加による『海洋の酸性化』を解説 温暖化以外の問題も出典:Pixabay

具体的なには、地球環境研究センターでは、ムラサキウニとエゾアワビの卵から孵ったばかりの幼体を二酸化炭素濃度が高い海水で育てる研究がされています。

そこでは、ムラサキウニの場合は足が短い個体になり、エゾアワビは殻にアナが開きはじめ、殻の内側が濃度が高くなるにつれ溶解するという実験結果がでているようです。

より高次な生物への影響

ムラサキウニやエゾアワビなら人間には直接関係はないだろうと思うかもしれません。しかしこれらのウニやカニなどの海洋生物は、食物連鎖においては下位に属しています。

これらの下位に属する生物が生息、繁殖しにくい環境になってしまうと、上位に属する生物の成長や繁殖にも影響が及ぶ可能性があります。

これらが原因で、食物連鎖が崩れてしまうことで、特定のサカナが少なくなってしまったり、最悪の場合は絶滅してしまう可能性もあります。

経済への懸念

酸性化の影響で貝類や甲殻類の成長に問題が生じると、外洋での貝類、カキやホタテの養殖業などでは、成長が遅くなったり、形が不揃いなってしまって、出荷が遅れたりと様々な悪影響を及ぼしてしまいます。

また、サンゴ礁等の海洋観光資源に依存する観光業にも様々な影響が懸念されます。

食物連鎖の下位に属する生物が豊かに育ってくれなければ、我々人類の経済もうまく回らなくなってしまう可能性があるのです。

人類はどうすればいいのか

では酸性化を防ぐには、人類はどうすればいいのでしょうか。海が酸性に傾くなら、「アルカリ性のものを海に投入すればいいのではないか」。

そう思う方もいるかもしれません。

たしかに理論上は、アルカリ性の物質を海に投じれば、二酸化炭素の増加の影響を中和できます。

しかし、現実にはこれを行うのは不可能なのです。

たとえば1tの二酸化炭素を中和させるのには少なくとも2tの石灰が必要です。現在、世界中で排出されている二酸化炭素は年間で約300億t以上にのぼるため、必要な石灰は単純に計算しても約600億t。この方法が現実的ではないのはお判りいただけたかと思います。

また、自然の浄化の力を使っても、海水のpHが工業化以前のレベルに戻るには、何万年もかかると言われています。

現段階では、これまでに進んだ酸性化は、おそらく元に戻すことはできません。

では私たちはどうすればいいのでしょうか。

二酸化炭素量増加による『海洋の酸性化』を解説 温暖化以外の問題も出典:Pixabay

一人ひとりができることを

海が二酸化炭素を吸収する仕組みを人間が制御することは、今現在の科学力では困難であり、一度、海に溶け込んだ二酸化炭素を取り除くことも今はまだできません。

しかし、たとえ海洋の酸性化を止めるができなくても、抑制することはできます。

それは、『二酸化炭素の排出量を減らす』。

今はこれしかしかないできません。

排ガス規制や化石燃料の消費を抑えた低炭素社会づくりをしていくことが、今の人類にできる最善の方法なのです。

この記事を車のエンジンをつけたアイドリングの状態で読んでいる方はいったんエンジンを止めてみてください。車は1時間のアイドリングで,約1~1.5Lの燃料を消費し,約500g~1kgの二酸化炭素を空気中に排出すると言われています。

この些細な行動が数年後の海の姿を変えてくれるかもしれません。まずは一人一人がこの事実を知り、もっと深刻な問題と捉えること。まずはここからなのではないでしょうか。

<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>