1kg数千円の値がつくこともある高級ガニ「ドウマンガニ」。静岡県で、このカニの養殖に成功したことが発表されました。研究を大きく前進させたカギは、意外にも「交尾のタイミング」の解明だったといいます。ドウマンガニとはどんなカニなのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
静岡で「ドウマンガニ」の養殖に成功
近年、さまざまな海産物の養殖が研究されている我が国で、ちょっと予想外の魚介の養殖に成功したというニュースがありました。その魚介とは「ドウマンガニ」。
市場のドウマンガニ(提供:Photo AC)静岡県水産・海洋技術研究所は先日、県内で愛されるカニの一種であるドウマンガニの養殖に成功したと発表しました。カニの完全養殖が成功したというニュース自体極めて異例なもので、業界の注目があつまっています。
養殖の研究は以前から行われていましたが、成功に至ったきっかけは「交尾のタイミング」が判明したこと。メスの脱皮の際に交尾が行われることは分かっていたそうですが、今回その周期が判明したことで、人工的に交尾させることができるようになったそうです。
今後はより多くのペアの交尾成功を目指し、研究を進めていくそうです。
世界中で愛される高級カニ
ドウマンガニと聞いても、特に東日本の人はあまりピンとこないかもしれません。基本的には南のカニで、日本では東京湾以南にしか生息していないからです。
しかし生息域では珍重され、1キロ数千円の値がつくのは普通。標準和名はトゲノコギリガザミといい、我が国で3種が確認されているノコギリガザミ類のうちで最も食味が良いとされるものです。静岡ではドウマンガニ、三重県ではドテヤブリ、高知ではエガニなどさまざまな地方名を持っています。
調理されたノコギリガザミ(提供:Photo AC)食材としては巨大なハサミと濃厚なカニミソが魅力的で、大きくなることから肉量も多く、1匹で十分楽しめます。石みたいに強固な甲羅を持つことから英語圏ではストーンクラブ、生きているときは青銅色であることから中国では青蟹などと呼ばれ、世界中の温暖な地域で食用にされています。
温暖化の指標生物としても重要
このトゲノコギリガザミをはじめとしたノコギリガザミ類ですが、実は近年我が国で漁獲量が伸びているカニでもあります。その原因は、このカニにとって我が国が「ちょうどいい温度」になりつつあるからです。
マングローブガニとも呼ばれるノコギリガザミは、元々はマングローブのあるような亜熱帯・熱帯地域を好む生き物です。しかし近年我が国の海洋温暖化、海水温上昇が進み、東京湾のような東日本の海も彼らの棲息適地になっています。
巨大なハサミでなんでも食べる(提供:Photo AC)高級カニの漁獲高が増えると聞くとお得な気持ちになりますが、ノコギリガザミは巨大なハサミであらゆる生き物を襲って食べる獰猛なカニであり、新たな生息域では外来種問題に近いようなトラブルを引き起こす可能性もあります。
今後の環境変化や生息域の北上傾向に注意が必要な生き物であるとも言えるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>

