名前だけはよく知られている「ふなずし」。多くの人が思うような「鮒の寿司」ではありません。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「ふなずし」作りの講習会に参加
生魚が苦手でない限り、日本人で「寿司を食べたことがない」という人はまずいないと思います。しかし「ふなずしを食べたことがない」という人は、おそらくかなり多いのではないでしょうか。
ふなずし(提供:PhotoAC)ふなずしとは、滋賀県琵琶湖沿岸地域で作られているフナ(鮒)の加工食品で、フナと米で作られている点は普通の寿司と一緒です。しかしその実情はというと、干からびたようなフナに、溶けてペースト状になった米がべっとりとついており、そして慣れない人なら悲鳴を上げてしまうような匂いを漂わせています。
そんなまるで寿司とは思えないふなずしは、いったいどのようにして作られるのでしょうか。先日、そんなふなずしの「作り方講習会」に参加する機会がありました。
ふなずし作りは大変
ふなずし講習会が開かれるのは、琵琶湖の中ほどに浮かぶ離島・沖島。わが国唯一の「湖にある有人離島」です。ここでは漁業が基幹産業となっており、ふなずしの原料となる琵琶湖の固有種「ニゴロブナ」もたくさん漁獲されています。
ふなずし作りはこのニゴロブナを数か月の間塩漬けにするところから始まりますが、これは漁協のほうですでに済ませています。塩漬けニゴロブナを手渡され、ブラシできれいに磨くところから講習会での作業はスタートします。表面の鱗模様がきれいに消え、口内部の膜もなくなるまで徹底的に磨き、塩も洗い落とします。
ふなずしを漬ける(提供:PhotoAC)磨いたフナと硬めに炊いたご飯を、バケツにピッタリ敷き詰めたビニール袋の中に交互に詰め込み、空気が入らないようみっちり敷き詰めます。口の中などの空間にもご飯を詰めていきます。最後に袋を閉じて重しを乗せ、半年ほど待てば完成です。
このとき、余計な空気が入ってしまうと嫌気発酵がうまく起きず、おいしいふなずしにはなりません。また漬け込み後すぐに気温が上がらないとやはり発酵がうまくいかず、異臭が出てしまうことがあります。作業はシンプルですが、一つ一つ丁寧にやっていかないと失敗のリスクも高い食べ物なのです。
これが「寿司」なの?
このように、ふなずしは「発酵食品」であり、一般的に寿司と呼ばれる食べ物とは全く違っています。なのになぜ「すし」と呼ばれているのでしょうか。
そもそも、寿司とは本来このような「魚と米を一緒に発酵させたもの」を指していたといわれています。そのままだとすぐに腐敗してしまう魚を米に埋め、乳酸発酵させることで保存性を高めると同時に、うま味や新たな栄養素を発生させる優れた手法だったのです。熟成させることから「熟れずし(なれずし)」とも呼ばれます。
サバの早熟れずし(提供:PhotoAC)しかしこの熟れずしは作るのに時間がかかってしまうという難点があります。やがて発酵期間を短くし、米に酸味が出たあたりで食べる「早熟れずし」がうまれ、さらに米に酢を混ぜて人工的な酸味を加え、魚と合わせた現代につながる「寿司」が生まれました。
寿司は「酸し」が語源とされており、そもそもはふなずしのような「酸っぱい発酵食品」こそが寿司であったのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>


