長野県で「漁業協同組合が市長を刑事告訴する」という出来事がありました。一体何があったのでしょうか。
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「漁協」が「市」を訴える
先月下旬、とある訴訟のニュースがメディアからの注目を集めました。その訴訟とは「とある市の市長が、市内の漁業協同組合から刑事告訴された」というものです。
告訴されたのは長野県諏訪地方の中心都市の一つ、茅野市の今井市長。訴えたのは同市内にある諏訪東部漁協で、罪状は「漁業法違反」です。
市長が市内の河川で密漁でもしたのか? と思う人がいるかも知れませんが、そうではありません。一体何があったのでしょうか。
「約束が守られなかった」
同市内には田沢々川という河川があり、当該漁協によって管轄されていました。小さな河川ながら、漁業の盛んな天竜川、諏訪湖の上流にあり、魚たちが産卵を行う川として知られていました。
しかし市が災害防止のための河川改修工事を行うこととなり、漁協側との協議の上「改修後に自然の石などを川底に配置し、魚が産卵を行えるようにする」という取り決めが行われたそうです。
しかし改修工事の結果、田沢々川はまるで東京の都市河川のような三面護岸となり、石の類は配置されませんでした。素人が見ても「ここに魚は棲めない」とわかるほどで、「約束が違う」として漁協は市を訴えたのです。
「多様性」も「安全性」をも満たせない
告訴に対し、市は「過去に起こった河川災害を参考に改修工事を行った」とコメントしていますが、もし取り決めが本当になされていたのなら残念ながら履行されなかったと言わざるを得ません。工事に携わった業者のHPで改修中や改修後の様子が確認できますが、環境に配慮している様子は微塵も感じられません。
さらに、仮に取り決めを一旦無視したとしても、この改修に正当性があるとは言い難いです。なぜならこのように改修された河川では災害時に流速が速くなりすぎて、下流部における水害危険性を高めることがわかっているからです。
近年では、むしろ河川の両岸に障害物や遊水地のようなスペースを設け、流速を遅めていくほうが良いという考え方が広がっています。
このような改修は結果的に生き物たちや環境の保全にも繋がり、安全対策をしながら漁業をし続けることも可能になります。今回のトラブルは、工事担当者に最新の知見があれば防げたものだったかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>