スーパーへ行けば見ない日はないであろう「カレイ」。この魚の仲間は日本に30種以上知られており、食用になる種も少なくありません。そんなカレイたちの中でも「幻のカレイ」「カレイの王様」と呼ばれる魚をご存知でしょうか?
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
今や幻となったホシガレイ
漁業関係者から「幻のカレイ」と呼ばれる魚の正体はホシガレイです。ホシガレイはカレイ科マツカワ属の魚で、標準和名は体やヒレに星のような模様があることに由来します。
カレイ・ヒラメ類の多くは北日本に分布しますが、本種は北海道から九州の広い範囲に分布する特徴があり、各地で記録がありました。
しかし、現在では幻のカレイと言われる程稀少な魚となっており、かつて漁獲があった東京湾、大阪湾ではほとんど見られません。
南のホシガレイ、北のマツカワ
マツカワ属の魚は世界で2種が知られており、いずれも日本に分布します。
1種は先程紹介したホシガレイで、もう1種はマツカワというカレイです。マツカワは通称「カレイの王様」として知られている他、北海道では「王鰈(おうちょう)」の名でブランド化されています。
ホシガレイが九州までの南方域まで出現するのに対して、マツカワは北海道から島根県・茨城県までしか分布しないため、「南のホシガレイ、北のマツカワ」と言われるようになりました。
この2種は非常によく似るものの、先述のように分布域が異なることや、ホシガレイはヒレに円形の黒斑があるのに対して、マツカワガレイでは帯状になることから区別することが可能です。どちらも最高級のカレイであり、大型個体の価格は数万円にもなるとか。
高級魚であるが故に研究が盛ん
カレイ科最高級として知られるマツカワ属2種ですが、水産上重要な種であることから研究が進んでおり、人工種苗の放流が積極的に行われています。
特に北海道のマツカワは人工種苗の放流により大幅に資源を回復させた事例として有名。1970年代に資源が激減したマツカワは1987年の厚岸町の放流に始まり、2006年からは100万匹以上の人工種苗が放流が行われるようになりました。
放流の効果もあり、2008年には資源が大幅に回復。1994年の漁獲量は1.3トンでしたが、2018年の北海道におけるマツカワの漁獲量は150トン以上を記録しています。
ホシガレイもマツカワと同様に人工種苗の放流が行われており、近年、2万トン前後の漁獲量がある福島県では1993年に人工種苗の試験的な放流が行われました。2003~2006年の福島県主要8市場におけるホシガレイの放流個体の割合は90パーセント前後と非常に高く、人工種苗が漁獲量の大部分を賄っていたのです。
一方、2018~2020年には20万匹前後のホシガレイを放流したものの、放流個体が占める割合は6.2パーセントと非常に低いものでした。これは天然個体の増加を示唆しているとのことで期待が高まっています。
人工種苗の問題点
マツカワやホシガレイでの成功例があるように人工種苗の放流は資源を回復する方法の1つとして広く用いられています。
2015年の時点で70種にも及ぶ人工魚が約15億匹放流されており、神奈川県や鹿児島県のマダイは40パーセントが放流個体だったそうです。
しかし、人工種苗の放流は資源を回復させる一方、天然資源の遺伝的多様性を低下させるリスクが指摘されています。そのため、近親交配の回避や資源調査、遺伝的多様性のモニタリングが定期に必要と考えられているようです。
高級カレイとして名高いマツカワとホシガレイですが、近年は放流により徐々に資源が回復しているのでした。また、この2種は養殖の研究も進んでおり、近い将来、安定的な供給が実現するかもしれません。
参考
(福島県沿岸におけるホシガレイ天然個体の増加-福島県)
(ホシガレイに関する研究-Ⅱ 漁業実態と福島県沿岸における生活史-福島県)
(人工種苗放流により再構築されたマツカワ資源の現在 工種苗放流により再構築されたマツカワ資源の現在-北海道立総合研究機構)
(人工種苗放流に係る遺伝的多様性への 影響リスクを低減するための技術的な指針-水産庁)
<サカナト編集部>