ここ数年、資源の危機が叫ばれている秋鮭。日本で採れなくなっているのは「別のサケとの競争に負けたから」であるという説があります。
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秋の風物詩・サケは今年も不漁予測
我が国における「秋の魚」の代表といえばサンマ、そしてサケ(シロザケ)。秋鮭という名前でも呼ばれるほどに秋のイメージが強く、朝晩に涼しい風が吹く頃になると「秋鮭の切り身」が鮮魚コーナーに並び始めます。
しかしそんなサケも、ここ数年は極めて厳しい不漁に見舞われています。2005年の時点では年間7,000万匹ほどのサケが日本沿岸に来遊していましたが、ここ数年はその半分以下の水準です。
最もサケの漁獲量が多い北海道では毎年、来遊数予測を公開していますが、今年度は全道で1,703万匹という予測になっています。これは記録的不漁と呼ばれた昨年の70%程度の低水準です。
不漁の理由は「別のサケに負けた」から
一体なぜ、日本のサケはここまで減少してしまったのか。それは「海の中で他の種類のサケとの競争に負けたから」だという説が、先日発表されました。
シロザケは日本の川を下って海に出たあと、ロシアとアメリカの間にあるベーリング海という低水温の海域を回遊し、餌を食べて成長します。しかし近年、世界的な海洋温暖化の影響によりベーリング海の水温も上昇し、「カラフトマス」という種類のサケがここで成長できるようになり、勢力を拡大したのだそうです。
シロザケはベーリング海でカラフトマスと競合するようになり、餌不足で成長できない個体が増え、結果として資源量が減少。日本に帰ってくる個体も減ってしまったのだそうです。
「サケ」は消え「サーモン」だけが残る
この現象から考えられるのは、おそらく今後も暫くの間はシロザケの不漁は続くであろうということ。しかしそれを聞いても、多くの日本人は「サケいなくなったの?知らなかった」とポカンとするばかりかもしれません。
そもそも、サケが秋の魚というイメージも今やかなり薄まっているように思います。年間を通して「鮭の切身」が店頭に並び、いつでも好きなときに利用できるからです。
しかしこれらのサケは「ギンザケ」という別の魚で、シロザケではありません。ギンザケはもともとは国外の魚で、成長が早く味が良いために各地で養殖され、今や我が国で最も一般的なサケとなっています。
ギンザケはコーホーサーモンという魚であり、アトランティックサーモンやニジマスなど他の「サーモン」同様、シロザケとは味や利用法の上で異なる所も多いです。
我が国では「サケ」は自然からも食卓からも消えていき、残るのは「サーモン」だけとなるのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>