筆者は毎年、渓流釣りが解禁となる3月1日から禁漁日まで、足繁くホームリバーへと通い続けている。2024年も毎週のように通い続け、キャッチ&イートの精神の元、家族で食べる分のアマゴを持ち帰って調理するのだが、その際の胃袋チェックはもはや恒例行事だ。今回は、アマゴの胃袋から出てきた様々な餌にフォーカスしてみたい。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)
渓流魚は雑食性
渓流魚として代表的なのは、アマゴ・ヤマメ・イワナ・ニジマスの4種だろう。まずは、これらの魚種を狙う際によく使用される餌から見ていきたい。
川虫
代表的なエサと言えば真っ先に思い浮かぶのが川虫。数多くの種類がいるが、キンパク、ヒラタ、クロカワムシ、ピンチョロ、オニチョロ辺りが有名だ。
イクラ
解禁直後のアタリエサとして有名なのがイクラ。栄養価が高くて匂いも強い為、低水温期の渓魚に大変効果がある。だが、季節が進むにつれて見切られるようになるため、シーズン中盤辺りから使わなくなる人も多い。
ムシエサ
こちらはブドウムシとミミズ(キジ)が代表的。どちらも釣具店で購入出来ため、大変手軽と言える。梅雨時の増水時には匂いの強いミミズへの反応が良く、夏場の渇水期はブドウムシへの反応が良い。
陸生昆虫
今回特にフォーカスしたいのがこちら。一般的にはバッタやクモなどが文献で紹介されているが、はたして実際はどうなのか。筆者なりに調べてみた。
実際に釣って調べてみた
筆者は子供の頃から釣り雑誌・新聞・本を読むのが趣味だったため、あらゆる文献から「渓魚の餌」というものを知識として吸収してきた。では、これらの文献には紹介されている餌以外、本当に食べないのか?という事が気になり、釣ったアマゴの胃袋を調べてみた。
約100匹を調べる
2024年シーズンだけで、家族の胃袋に収まったアマゴの数はおよそ100匹。早速、シーズンごとに「どんな物が胃袋から出てきたのか」を見ていきたい。
解禁直後
やはりエサが豊富でないからなのか、胃袋が空で痩せている個体が多かった。そんな中、水温が比較的高めの支流で釣ったアマゴの胃からは、ヒラタ、キンパクの他、クロツツトビケラが巣ごと多数出てきた。
そして驚いたことに、このクロツツトビケラの巣に似たサイズの細い木の枝も多数出てきたのだ。さらに、他の釣り人が捨てたものなのか、未消化のイクラやブドウムシが出てくることもあった。ちなみに、筆者が実釣で使用した餌で効果が高かった順に、イクラ>キンパク=ヒラタ>その他川虫、となる。
4月
4月は雪解けを迎え、多くの餌が渓流に流れる時期。そのため、肥えた個体が一気に増え始める。キープした大型の個体から最もよく出てきたのは、やや小型のマゴタロウ虫(ヘビトンボの幼虫)だ。
さらに、ヒラタ、クロカワムシ、クロツツトビケラ、オニチョロ、スナムシ(モンカゲロウの幼虫)の他、蛾やハエの仲間、ミミズも出てくる事があった。筆者の実釣で効果が高かったのは、ヒラタ(圧倒的)>スナムシ>キンパク>川虫(成虫)>オニチョロ>クロカワムシ>イクラ>マゴタロウ虫(釣果無し)だった。
5月
陸生昆虫が一気に増え始めるこの時期、アマゴ釣りは最盛期を迎える。様々な物が胃袋から出てきたが、やはりマゴタロウ虫は健在。だが、最も多く出てきたのはヒラタで、クロカワムシも増え始めた印象だ。
その結果に呼応するように、実釣で効果が高かったのは、ヒラタ>川虫(成虫)>クロカワムシ>オニチョロ>キンパク>スナムシ>マゴタロウ虫(釣果無し)だった。
6・7月
この時期になると、胃袋から出てくる水生昆虫は一気に減り、代わりにカゲロウやトビケラといった水生昆虫の成虫がメインとなる。さらに落下昆虫も積極的に食っているようで、カメムシ、ハナムグリの仲間、カナブン、セミ(おそらくニイニイゼミ)、バッタ、アシナガバチやジガバチといったハチ類も出てきた。ただ、増水した後はクロカワムシが出てくることもあったので、その時に食べられるものを食べているという印象だ。
実釣で効果が高かったのは、ヒラタ>クロカワムシ>ブドウムシ>ミミズ>オニチョロ>キンパク>マゴタロウ虫(釣果無し)だ。追記すると昨シーズンまで、筆者はバッタでもそれなりに釣果を得ている。
実釣で使えそうなものは?
当然ここまで調べた結果、「特効餌になるようなものを見つければ、他の人より良い釣果が得られるのではないか?」と考えた。だが現実は甘くない。筆者の考察を書いていこうと思う。
マゴタロウ虫
良型の胃袋から頻繁に出てきたので、幾度となく使用してみた。だがどういう訳か思っていたよりも食いが悪く、ヒラタに付け替えたら一発で食ってきた……なんて事が多くあった。さらに、エサ箱の中に入れていると結構暴れるようで、他の川虫が弱ってしまう。そしてサイズがデカイために数多くストックできない、針に付ける際に嚙みついてくるなど、正直デメリットの方が圧倒的に多い。エサとしてはハードルが高すぎた。来シーズン、筆者はもうマゴタロウ虫を使う事は無いだろう……。
クロツツトビケラ
春先によく胃袋から出てくるのだが、クロツツトビケラの幼虫は1cm程度。いかんせんサイズが小さすぎる上に大変細いので(幅1~2mm)、エサには不向きだ。それに、わざわざこれを使わなくてもヒラタで十分だ。
水生昆虫の成虫
こちらは「捕まえて即エサにする」なら実に効果的だった。だが成虫には翅があるため、保管の観点から「捕まえてストックする」ことはできない。また、「常用餌」とするには多数捕まえなければならず、これは大変面倒だ。良く釣れる餌ではあるが、入手出来たら使うという程度に留めたい。
蛾、クモ、バッタ
川虫のように一か所に固まっている・一か所で沢山採れるという事がほぼ無いので、捕獲効率が悪すぎる。専門に集めるなら川虫網ではなく捕虫網が必要だ。釣れる餌ではあるが、こちらも入手出来たら……という程度で十分だろう。
セミ・ハチ・カナブン
こちらはさらにハードルが高く、そもそも探す・捕まえるのが大変だ。釣りをしに来たのであって、虫取り小僧になるために来たのではない。ハチに至っては刺されるリスクまである。保管も大変なので、全く持って現実的ではないと言えるだろう。
小魚はNG?
アマゴはルアーの対象魚でもあるので、「もしかしたらノマセ釣りでも釣れるのでは?」と考えたこともあった。だが、今シーズン釣ったアマゴの胃から小魚は1匹も出てきていない。という事は、わざわざ無理をして生きた魚を入手し、エサにするというメリットは無いと言えるだろう。
結論・文献は偉大だった
釣り雑誌や新聞、本に掲載されている内容は、先人たちが知恵を絞り、数々の失敗を繰り返したうえで無駄な情報をそぎ落としてきたもの。そこに記されている内容はやはり「誰もが楽しめるよう趣向を凝らした結果」なのだ。
確かに、掲載されていない物でも沢山釣れることはあるだろうし、全てが正しいわけではないだろう。だが、採集効率・保管の容易さ・エサとしての性能などを加味すると、筆者が書いてもきっと同じ内容になる……という事がよく解った。
こういった「もしかしたら?」を探し求めるのも釣りの醍醐味なので、読者の皆様も是非「こんな物でも釣れるかも?」といった思考を巡らせてみてほしい。
<荻野祐樹/TSURINEWSライター>