全国でも「浜名湖」でしか行われていない独特な漁「たきや漁」。一体どのような漁なのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
浜名湖の観光漁「たきや漁」
静岡県西部にある日本有数の湖・浜名湖。今切口という海峡で外洋とつながっており、汽水域から海水域まで様々な環境が広がっています。
そんな浜名湖には、全国でもここでしか行われていない独特の漁があります。それは「たきや漁」。
この漁では、小舟を潮流や風、あるいは船頭の櫂による操船により自然に流しながら、海底をライトで照らします。そして底にいる魚介類や、ライトに寄せられて集まってきた魚を銛で突いたり、たも網で掬って漁獲します。明かりを焚きながら行うので「焚き屋漁」と呼ばれたのが名前の由来だそうです。
現在では職業的な漁としては行われておらず、観光漁として料金を払えば誰でも楽しむことができます。漁期は夜の気候が心地よい5~9月で、波が立つと海中が見えなくなるため凪の日限定で行われています。
どんな魚が採れるの?
このたきや漁では、主に浅い砂地の上をゆっくり移動しながら漁を行います。そのためマゴチやシタビラメのような魚、またワタリガニ(ガザミ)やタコもよく採れます。シーズン初期はコウイカ類もよく採れるそうです。運が良ければ、浜名湖が誇る超高級食材「どうまんがに」ことトゲノコギリガザミが採れることもあります。
また浜名湖にはカキやノリの養殖のための設備が多く存在し、それらはクロダイやスズキの隠れ家兼餌場となっています。これらの魚もメインターゲットで、良い時では一晩に4~5匹採れることもあります。
その他、ライトに照らされてサヨリが船に寄ってきます。大きな個体は銛で、小さな個体はタモ網で掬うと面白いです。
なぜ浜名湖だけなの?
たきや漁は素人でも簡単に楽しめ、一晩でそれなりの漁獲に恵まれることも多いです。全国各地で行われていても不思議ではないのですが、現在行われているのは浜名湖のみのようです。
そもそもこの漁は、浜名湖の独特な環境の中で生まれたものだと言えます。というのも、この漁が行われるには「早い潮流」「遠浅で澄んでいる海域」そして「豊富な生物たち」という条件が満たされる必要があるからです。
奥まっていながらも入口寄りに浅い海域が広がり、一箇所のみで海とつながっているために潮の満ち引きによる速い潮流が発生する浜名湖のような環境は、全国を探してもそうあるものではありません。加えて前記の通り様々な環境の広がる浜名湖は「日本で最も生息種類数が多い湖」とも言われており、この漁が成り立つだけの資源があるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>