我が国には「タウナギ」そして「ヌタウナギ」という2つのウナギと名のつく魚が生息していますが、これらは互いに名前はよく似ていても近縁ではなく、さらにはウナギそのものとも近縁ではありません。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ウナギはウナギ目
日本の夏の食卓に欠かせない存在であるウナギ。先日はついに、完全養殖ウナギが「1匹あたり数千円」という現実的な値段まで価格を下げられたというニュースが発表され、ウナギ愛好家から歓声が上がりました。
そんなウナギですが、そのヘビ型の体型は非常に特徴的であり、同様の体型をした魚たちは「ウナギ型魚」なんて呼ばれることがあります。
ウナギ型魚にはマアナゴ、ハモ、ウツボなどといった重要食用魚がいくつも含まれています。そしてこれらの魚の多くは「ウナギ目」という大きな分類に含まれています。
タウナギはタウナギ目
さて、我が国に生息するウナギ型魚の中に、一風変わった魚がいます。その魚とはタウナギ。
漢字で書くと「田鰻」となり、名前の通り田んぼやその周辺の用水路、河川などに生息しています。水量が少なくても生息可能で、ときに干上がりそうな場所でも泥に潜ってやり過ごします。
原産地は東南アジアとされており、我が国へは過去何度かに分けて移入したと見られています。田んぼと用水路の間に穴を開けてしまい漏水の原因になるので、稲作農家からは嫌われているそうです。
そんなタウナギ、見た目は完全に黄色いウナギですが、実はウナギ目ではなく「タウナギ目」に含まれ、分類学上はかなり縁遠い魚。ウナギにはしっかりとした背鰭と腹鰭がありますがタウナギはいずれも退化しており、またウナギの口はヘビのように大きく開きますが、タウナギは口が管状になっているという違いがあります。
ヌタウナギはヌタウナギ「綱」
他にも、ウナギのようで全くウナギではない魚がいます。それはヌタウナギ。
ヌタウナギは漢字で書くと「沼田鰻」となりますが、沼でも田んぼでもなくやや深い海に生息しています。タウナギとも名前が似ていますが、ウナギやタウナギとは目のさらに一つ上の段階である「綱(こう)」の段階から異なっています。
ウナギやタウナギが他の大半の硬骨魚類と同じ「条鰭綱」に属するのに対し、ヌタウナギ類は「ヌタウナギ綱」に属します。実はヌタウナギは魚類の中でも極めて原生的な存在とされており、ウナギどころか他のあらゆる魚たちとも全く違う構造をしているのです。
ヌタウナギの最大の特徴は「顎がない」こと。口はすぼまった穴の形状をしており、摂餌の際は中から舌がぬるっと飛び出して対象を削り取ります。また軟骨のみしか持たず、背骨のところには細長い棒状のものが1本収められているだけで小骨のたぐいは全くありません。
ヌタウナギはシルエットだけはウナギ状に見えますが、実態は全く異なる生き物なのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>