初夏を感じる今日この頃、たくさん釣れてしまったサカナを干物にする機会も増えているでしょう。干物にするだけで保存期間も長くなるうえ、旨味も増すのはなぜなのでしょうか。調べてみました。
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サカナの干物とは
知らない人はほとんどいないとは思いますが、まず干物についてざっくりとした説明を。
干物とは、読んで見た漢字のとおり、サカナを乾燥させて水分を抜き、長期間貯蔵できるように加工した食品のことを指します。
本来はサカナに限らず干している食材は干物と呼んでいいはずではあるものの、日本では干物と言うと一般的にはサカナを干したものと認識されています。
干物は天日干しなどで水分を飛ばすことで表面に膜を張り、保存性を高めています。
干物にすると保存期間が増す?
サカナに限らず、食材は微生物の作用によってどんどん腐敗していきます。
この微生物が好むのは高温多湿な環境ですので、常温で食材を放置したり、餌となる水分が多かったりするとすぐに繁殖してしまい、あっという間に腐っていきます。
しかし、食材の水分を35~40%まで減らすことで微生物の繁殖を抑制することが出来、保存期間は増していきます。
日本は島国で魚介類が豊富な国だったため、全国各地にこの技術が広まったと考えられています。
例え海がない場所でも魚介類は重要な食材ですので、魚介類の干物にする必要があったのです。
ちなみに、ジャムや塩蔵なども実は保存食としては同じような原理をしています。
ジャムや塩蔵は塩分濃度や糖度を高めて微生物が利用できる水分を減らしています。
干物は水分自体を少なくすることで微生物の活動を防いでいますが、微生物が利用できる水分を無くすという意味ではジャムや塩蔵は「保存食」としての原理はかなり似ているのです。
干物にすると旨味が増す?
一般的にサカナは死後硬直がはじまるとイノシン酸やグルタミン酸などの旨味成分が生成され、時間の経過とともに組織は軟化、それに伴って旨味成分も分解されていき美味しさは減少していきます。
一方で干物の場合、旨味成分が生成された段階で乾燥させることで軟化が起こらず旨味成分がそのまま身に保持されます。
また、保持されるだけでなく、乾燥によって余分な水分を抜けることで旨味が凝縮されていき、むしろ美味しさは増していきます。
さらに、干物にすることで干物特有の弾力のある食感が生まれます。
干物をつくる時に際に塩を加えたり、味醂干しのように醤油に漬けたりすると、浸透圧で内部の余分な水分が抜けていきます。
これにより組織同士が強く結びつき、モチモチとした弾力感のある食感がつくり出されるのです。
また、この組織同士の強い結びつきにより、焼くなどの調理をしても旨味成分は閉じ込められたままの状態を維持することが出来ます。
ただ焼いただけの状態では脂と共に流れ出ていっていた旨味も、干物にすることで身にとじ込められるため、余すことなく堪能することが出来ます。
先人の知恵はすごい
干物にするだけで保存期間は増すだけではなく、本来失われていた旨味も逃すことなく食べることが出来ます。
現代のように科学が発達していなかった時代にこのような技術が生まれていたことに本当に驚かされます。
これから夏が始まりますが、サビキなどでたくさん釣れてしまったアジなどはざっくりと下処理をしまとめて干物にしてしまうのがいいでしょう。
干物は冷凍もできますし、旨味も逃げていかないので、時間をかけて美味しく食べることが出来ますよ。
<近藤 俊/サカナ研究所>