東京湾や大阪湾などの身近な海に、かつて「食材」としても「おもちゃ」としても愛されたという小さな巻貝が生息しています。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
「ながらみ」は美味しい食用貝
海岸線の長い日本では各地でユニークな海産物が食用にされていますが、そのようなもののひとつで、全国的にはマイナーながらも、いくつかの地域で非常に愛されている「小さな巻貝」があります。
その貝とは「ながらみ」。これは「キサゴ」というグループに含まれている3つの貝「キサゴ」「ダンベイキサゴ」「イボキサゴ」の総称で、とくに食用にする地域においてこのように呼ばれて親しまれているようです。
かつては3種とも食用にされていたようですが、キサゴとイボキサゴについては生息環境である浅い内湾が埋め立てられた結果生息数が減り、食用に漁獲されることも少なくなっているようです。現在では外洋性で比較的漁獲量もある「ダンベイキサゴ」のみがながらみとして流通しています。
日本最古の調味料の原料だった?
さて、このキサゴ類のひとつである「イボキサゴ」について先日、興味深い研究内容が発表されました。それはこの貝が「日本最古の調味料」の原料であったという説です。
日本でも有数の貝塚発見地である千葉県千葉市では、かねてより貝塚から出土する貝殻にこのイボキサゴが大量に含まれていることが知られていました。大きくても2cmほどにしかならない貝が、なぜ縄文時代にはこれほど大量に利用されてきたのか、よくわかっていなかったのです。
これについて昨年、千葉市で文化財の調査を行う機関が「煮込んで出汁をとり、それを調理に利用していたのではないか」という説が提唱され、注目を集めたのです。実際イボキサゴは煮込むと非常に濃厚な出汁が出るため、最近ではこれを利用した町おこしのようなことも行われています。
「おはじき」の元になったという説も
さて、このイボキサゴには「小さいけど美味しい」ということのほかにも特徴があります。それは「色彩や模様が多種多様で美しい」ということ。
1円玉くらいのサイズできれいな円形をしているこの貝は、個体によって殻の色が青、赤、黄、紺、茶など様々に変異します。知らないと全く別種の貝だと思ってしまうほどです。
そのため古くはこの貝殻を子どもたちが収集し、おはじき的な遊びに利用したのだと言います。そもそもこのイボキサゴが、現在のガラス製おはじきの元になったという説もあるようです。ちなみに地域によっては、おはじきのことを「きしゃご」と呼ぶことがあるそうですが、これも関連があると見て間違いないでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>