魚介類の需要増加に伴い、世界中で「養殖」が盛んに行われるようになっています。そして、いま最も注目されている養殖品目が「海藻」です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
世界銀行が「海藻養殖の将来性」を評価
世界の中・低所得国の政府や資本プロジェクトに融資を行う国際機関である世界銀行が、今年、世界の養殖業に関する注目すべき報告を行いました。
その報告とは「海藻の養殖に関連する市場が、2030年までの7年間で118億ドル(約1兆7,500万円)規模にまで成長する可能性がある」というものです。
同機関は報告書の中で、今後の海藻養殖に関わるビジネス・チャンスを分析し、そのポテンシャルを余すところなく発揮できるよう、世界の起業家や投資家、政策担当者に対してコミットすることを促しました。
重要なのは「非食用海藻」
海藻の養殖と聞くと、我々日本人ならノリやワカメ、コンブなどの食用藻類を想像します。「海藻をよく食べるのは一部のアジア人だけ」という話はネットでよく語られますが、実際のところ海藻類の養殖は日本、韓国、中国といった東アジアが全体の98%を占めています。
しかし、今回の世界銀行による報告でその将来性を評価されたのは、上記のような食用海藻ではなく「非食用海藻」の養殖です。
というのも現在、食用プラスチック容器や医療用の繊維などの分野で、海藻を原料とする代替製品の開発が進められており、CO2の増加やマイクロプラスチックなどといった世界の環境問題を解決する切り札として注目されているのです。
それだけでなく、農業製品や養殖動物の飼料、栄養補助食品の原料としても海藻類は非常に有望とされており、上記の東アジア国家のみならず、世界中の海洋国が海藻養殖拡大の恩恵に預かることができるはずだと報告書では論じられています。
環境保全にも多大な貢献
海藻養殖の拡大が生み出す価値は経済的なものだけではありません。
現在、海藻類は「地球温暖化を防ぐ切り札」と言われています。海藻は光合成の際に海洋中に溶け込む大量のCO2を吸収し、その温暖化防止効果は陸上植物を上回ると言われています。海洋生物が吸収するCO2をブルーカーボンと呼ぶのですが、海藻類はそれに多大なる貢献をしているのです。
また、海藻養殖は浅い沿岸部で行われることが多く、他の養殖業と比べて特殊な技量や力仕事が少なくて済むと言われています。そのため女性が就業しやすく、女性の社会的立場が低い中進国や途上国において女性の所得向上や社会的地位の向上につながる、という効果も期待されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>