釣りの世界では大スターといえるクロダイですが、最近では「漁業の大敵」としてニュースに登場することも多くなってしまいました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
厄介者の印象が強くなってきたクロダイ
数少ないタイ科の魚ながら、身近な環境に多く生息するクロダイ。黒光りする見た目には威厳があり、古くから様々な文献にも登場するなど高い知名度を誇る魚です。
そんなクロダイ、最近では意外かもしれませんが「害魚」としての知名度が非常に高まっています。というのも昨年から今年にかけ、クロダイによる漁業被害を訴えるニュースが各メディアでたびたび報道されるようになっているのです。
クロダイは雑食かつ広食性であり、海藻から甲殻類、貝類さらには小魚までも餌にします。そのため各地で養殖のノリやアサリ、カキ、さらには川に上るアユまでもがクロダイの食害に遭い、その被害は無視できないレベルとなっています。
釣りの対象として人気の理由
これらのニュースを聞くと「クロダイを駆除したらよいのではないか」と思う人も出てくるかもしれません。実際、クロダイによる漁業被害を報じるニュースについて「釣り人はクロダイのことが好きなのだから、釣り人の手を借りて駆除を行えばよいのではないか」というコメントがついているのをしばしば見かけます。
実際、釣り人でクロダイが嫌いという人はほとんど見かけません。わが国の釣魚の中では最も人気が高いものと言っても過言ではないでしょう。
クロダイは上記の通り広食性を持ち、様々な餌を食べます。それはすなわち様々な釣り方で狙えるということであり、伝統的な釣法から最新のものまで好きなやり方で狙うことができます。
また魚の中では知能が高いことでも知られ、昼に釣ろうとすれば非常に難しい相手になる一方、夜間は大胆になるために釣り素人でもポンと釣れてしまうことがあるのがまた好かれる理由になっています。
かつては食用魚としても重要
釣りの対象としての人気に比べると、食材としてはさほど重く見られていないのも、クロダイという魚の特徴です。しかし古くはクロダイは人気のある食用魚でした。
とくに、まだ冷蔵技術が発達していないころはこの魚は高級魚と呼べるものでした。クロダイは塩分濃度の変化に強く、アユを追いかけて塩分濃度の低い河川内に侵入することもあります。そのため、海で獲られたクロダイは井戸の水で生かしていくことができ、鮮度を保ったまま流通させることができたのです。
また全体にゼラチンを多く含み、汁物や炊き込み料理などにすると美味しいのも魅力です。現在でも瀬戸内海沿岸では大きなクロダイを1匹炊き込んだ「チヌ飯」がごちそうとされているところがあります。
好かれたり嫌われたり、珍重されたり駆除が望まれたりと、身近だからゆえに複雑な感情を抱かれるのが「クロダイ」という魚なのだといえます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>