各地の河川で漁獲される重要魚業種アユ。ブラックバスなどの外来魚やカワウなど様々な敵がいますが、最近は予想外の敵が各地で増えているようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
クロダイがアユを追い回す?
和歌山県南部、アドベンチャーワールドで知られる白浜町。この町内を流れる日置川で最近、チヌとして知られる鯛の一種「クロダイ」がアユを追い回す様子が目撃されています。
先日目撃されたのは、河口からは7kmほど遡った場所でのこと。別の日には、その近隣でウナギを狙って漁協関係者が仕掛けていた針に、チヌの成魚が何匹もかかっていたこともあったといいます。
日置川では満潮時でも、海水が遡るのは河口から3kmほど上流まで。つまりそれより上は純淡水域ということになります。漁業者は「海水魚のチヌがここまで上流で漁獲されるとは」と驚いているそうです。以前にもボラなどが川をさかのぼっていることはあったといいますが、チヌの確認例はなかったとのことです。
淡水にも対応できるクロダイ
クロダイといえば、釣りの対象としては古くから最も人気のある海水魚。小動物を好んで摂餌することから、オキアミやエビ、カニ、ゴカイなどの餌で狙うのが主流です。
しかし近年ではクロダイは「ルアー釣り」の対象魚としても非常に人気なものとなっています。それもカニやエビを模したものだけではなく、小魚の形を模したルアーでもとても良く釣れているのです。
実はクロダイを始めタイ科の魚は魚食性も強く、とくにクロダイやその近縁種のキチヌは、河川に生息するアユを好んで食べます。彼らはもともと河口や内湾の汽水域を好んで生息し、海水・淡水いずれにも順応できる能力を持つ魚。そのため河川の淡水を苦にせず、淡水魚であるアユを食べるために純淡水域に入り込むこともあるのです。
様々な漁業の敵・クロダイ
日置川の漁協関係者は「このままチヌが川をどんどん上がってくると、アユなど川魚に影響が出るかもしれない」と不安を口にしています。実際、クロダイはいま全国で「漁業における害魚」として猛威を振るう存在でもあります。
例えば、広島県周辺などの瀬戸内海西部では、クロダイによる名産のカキの食害が増えています。そして同海東部では、養殖のノリを食い散らかすことで問題に。東に離れた浜名湖でも、かつて全国屈指の漁獲量を誇ったアサリが減少している理由のひとつに「クロダイの生息数の増加」が指摘されています。
クロダイはときにスイカやスイートコーンも食べてしまうほど広い食性を持っており、様々な漁業種がその食害対象となってしまうのです。
一方でクロダイそのものは残念ながら鯛の中では食味があまり良くないと言われており、漁業価値が低いため、進んで漁獲されることはあまりありません。漁業被害が出ても駆除が進まない理由のひとつといえるでしょう。
ただそれでも美味しい魚であることは変わりないので、消費者としては食べることで直接的にも間接的にも漁業に貢献したいところです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>