「魚臭い」と聞くとどうしても悪臭を連想する人が多いと思いますが、わが国には「魚臭くて美味しいキノコ」というものも存在します。
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「魚臭いキノコ」が存在する
魚の体表には粘液が存在し、そこには臭みの成分であるトリメチルアミンが含まれています。そのため魚はどうしても独特の悪臭を持ち、これを「魚臭さ」と呼んでいます。
しかし、魚介類ではないにもかかわらず、魚臭さを持っているものもいます。そのようなものにはイルカやトドのような「魚食性をもつもの」が多いですが、中には全く関係ないのに魚臭さがあるものがいます。
そのひとつがキノコです。キノコは様々な臭いを持つことが知られていますが、なかには魚介類同様の生臭さや、干した魚介様の香りを持っているものもいます。トリメチルアミンが含まれているかどうかは研究がないのでわかりませんが、匂いの質では同等ではないかと思えるものも少なくありません。
臭いけど食用のキノコも
そんな「魚臭い・生臭いキノコ」のほとんどは食用にされていませんが、なかには食用キノコとして扱われているものもあります。
有名なものはトリュフです。世界三大珍味のひとつでもあるトリュフは世界中でとても良い香りをもつように思われていますが、我々日本人の多くはおそらく「ちょっと生臭い」と感じるのではないでしょうか。その香りはしばしば「海苔の佃煮」や海藻臭のように感じられ、白トリュフなど香りの強いものになると「魚臭いニンニク」のように表現されることもあります。
また、北海道の一部地方で人気の食用キノコとなっている「フキサクラシメジ」というキノコは、悪臭にも近い魚臭さを持っています。具体的に言うと「半腐敗した魚で作った干物」のような香りで、味は良いのですが食べる人を選びます。
魚臭キノコ「チチタケ」
そんな「魚臭い・生臭いキノコ」界には、とある地域で非常に愛されているキノコが存在します。そのキノコとは「チチタケ」。
チチタケは傷つけると乳液状の分泌物を出すことから乳茸と呼ばれているのですが、その乳液やキノコ全体からかなり強い魚臭を発します。食感ももろく、見た目にもあまりおいしくなさそうですが、じっくり火を通すと強い旨味が出ることから食用キノコとして用いられてきました。
とくにこのキノコを愛するのが栃木県民で、当地ではこのキノコ(ちたけと呼ばれる)で出汁をとったうどんである「ちたけうどん」がソウルフードになっています。その出汁は非常に濃厚で、やや煮干しの出汁に似ており、香りもよいアクセントになっています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>