漁業にも効率が求められる現在において、非効率であることが理由で現役となっている漁が存続します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「ホッカイシマエビ」の漁が解禁
北海道の道東地域にある「野付湾」。砂州でできた半島に囲まれたこの海で、先月19日から「ホッカイシマエビ」の漁がスタートしました。
当日の朝には、約20隻が野付湾に面した別海町の尾岱沼漁港から出漁し、湾内各地で漁を実施。初日の水揚げは量型ともにまずまずだったそうです。
当地でのホッカイシマエビ漁は、7月7日まで続けられる予定です。
「打瀬網漁」ってどんな漁?
野付湾におけるホッカイシマエビ漁は「打瀬網漁」という独特な漁法で行われています。
打瀬網は小型の引き網の一種で、船べりにつけて船が移動する力で引っ張ります。そしてこの時、船はエンジンを切って三角形の帆を張り、風の力で流されながら網を引きます。
打瀬網による漁はホッカイシマエビのほかにも、熊本県や鹿児島県で「クマエビ」というクルマエビの仲間のエビを獲るのに用いられています。また、かき揚げの材料としても知られるシバエビはしばしばウタセエビという別名でも呼ばれますが、これはかつて名産地であった東京湾で打瀬網漁にて獲られていたことに由来します。
これらの例から見ても、打瀬網漁はエビを獲るのに向いた漁法であることがわかります。
なぜこんな非効率な漁で獲るのか
しかし、機械化や省力化が進むこのご時世に動力装置を使わず、風の力で網を引くというのは珍しく感じます。いったいなぜなぜエンジンを用いないのでしょうか。それは「環境を守るため」です。
ホッカイシマエビをはじめ、浅い内湾に住むエビは、海中に生えているアマモやホンダワラなどといった海草・海藻類を棲家としています。もしエンジンを使って船を早く動かして網を引くと、これらの植物をも根こそぎ採ってしまう形になるのです。
そうすれば初めの年こそたくさん獲れるかもしれませんが、エビの棲家が破壊されてしまうために翌年以降は獲れなくなってしまう恐れがあります。環境を守るためにあえて非効率な方法で漁獲している、まさにSDGsな漁であると言えるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>