魚が獲れない日本の漁業を救う存在と言われる養殖業。しかし、残念ながらその現状も芳しくはありません。ペルーでイワシが一時禁漁となり、その影響が懸念されています。
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ペルーでイワシが一時禁漁に
世界有数の漁業大国として知られる南米のペルー。この国を代表する漁獲物といえば、カタクチイワシの1種「アンチョビ」です。このアンチョビを含むイワシ類の水揚げはペルーが世界1位となっており、2位の国の数倍となっているほどです。
しかし、そんなアンチョビの本年度の漁業に、暗雲が垂れ込めています。毎年4月〜8月にかけ行われるペルーのイワシ漁第一期の漁獲枠について、同国政府は前年比39%となる109万tに制限すると発表したのです。
しかし結局は漁獲枠制限だけにとどまらず、今月8日で当期の漁を打ち切ることも決まりました。これは先だって同国で実施された試験操業において、水揚げされたアンチョビの8割強が小さな未成魚だったことを受けた形となります。
アンチョビは養殖魚のエサ
今回のイワシ禁漁処置は、太平洋を挟んで反対側にある我が国でも報道されています。これは、アンチョビの価格が我々の食卓に非常に大きな影響を及ぼすため。
というのも、実はペルーのアンチョビはその大部分が「養殖魚の飼料」用に加工されるのです。我々が普段食べているブリやカンパチ、マダイなどの養殖魚も、このアンチョビからできた飼料で育てられているといえます。
そのためアンチョビが不漁で価格が高騰すると。これらの養殖魚の値段もまた跳ね上がってしまいます。もしこのまま今年のアンチョビ漁が再開されなければ、今後どこかのタイミングで飼料価格が高騰し、それは確実に養殖魚の小売価格へと反映されるでしょう。
養殖にも頼れない日本の漁業界
我が国では漁業生産量、生産額とともに右肩下がりが続いています。2022年度の漁業生産量は、統計開始以来初めて400万tを割り込みました。
漁獲量の減少は乱獲や環境変化を原因とする資源量減少であり、その対応策として「天然魚から養殖魚への切り替え」が声高に叫ばれるようになっています。
しかしその養殖魚を生産するための養殖業においても、上記のような飼料価格の高騰を始めとした逆風が吹き続けており、生産量がなかなか伸びていません。そこにノリの不漁などもあり、2022年度の海面養殖業生産量は前年度8%減となっています。
天然魚は獲れず、養殖魚を育てることも難しくなっているわが国の漁業は、まさに八方塞がりの状況となりつつあるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>