美味しいけれど食べるところが少ない食べ物と言えばカニ。食べた後には大量の廃棄物が残りますが、いまこれが「資源」として注目されています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「越前ガニ」の殻でお米が美味しくなる?
福井県を代表する味覚のひとつ「越前がに」。福井県沖で水揚げされるズワイガニであり、日本海におけるズワイガニの高級ブランドとして知られています。
この越前がにのとある部位が今、脚光を集め始めています。それは越前がにの魅力である美味しい身……ではなく、その殻です。
越前がにを食べた際に大量に廃棄される「殻」に、イネの苗の成長を促す成分が含まれていることが先日発見されたのです。この地域で稲作を行っている人々が慣習としてカニの殻を田んぼに撒いており、それがきっかけで発見されたのだそうです。
イネの生育に有効なワケ
しかしなぜ、カニの殻がイネの成長を促すのでしょうか。
イネを始め、植物たちにとって最大の敵の一つが「糸状菌」と呼ばれる生物です。これはいわゆるカビやキノコ(担子菌・子嚢菌)であり、菌糸を作って増殖するタイプの菌類なのですが、彼らは植物体に侵入したり外部から分解して自分たちの栄養にしてしまいます。
そんな糸状菌は菌糸の細胞壁に「キチン」という物質を含んでいるのですが、このキチンはカニの殻の主要成分でもあります。そのため、カニの殻のエキスを植物にかけると、糸状菌が接近したと錯覚し防御反応を取ります。その結果、イネが丈夫になるのだそうです。
カニの殻のエキスをかけられたイネは米の粒が大型化し、味も良くなるという変化もみられるといいます。
「キチン」は人体にも欠かせない
このキチン、実は我々が暮らしていく上で欠かせない栄養素でもあります。体内に摂取されたキチンには、コレステロールや有害物質を吸着して、体の外に排出させる働きがあるためです。
この機能により、キチンを適量摂取することで肥満の予防や、免疫力を高めることができるとされています。そのため、キチンのサプリメントなども販売されており、こちらの点でも需要が高くなっています。
近年では、身を食用にするためではなく、脱皮殻からキチンを取るためのカニの養殖も行われています。このままキチンの需要増が進めば、今後はもしかすると、飲食店ごみや家庭ごみから「カニの殻」を分別してリサイクルすることが行われるようになるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>