ちょっとマイナーだけど全国で愛され、ユニークな地方名を数多く持っている高級魚介があります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
種子島で「ナガラメ」漁が解禁
全国の島で屈指の面積を誇り、フィリピン海と東シナ海を分ける鹿児島県の種子島。ここで、初夏の味覚となっている貝「ナガラメ」の漁が、5月1日に解禁されました。
種子島北部にある西之表市の海岸では、漁師が「クシ」という漁具を用いてナガラメを採取しています。漁船や大きな設備は用いず、素潜りで石をひっくり返したり、岩の下をのぞき込んだりしながら一つ一つ手で採っていく原始的な漁です。
種子島ではナガラメは刺身やみそ焼きで食べられていて、当地の特産品となっています。漁期は8月中旬まで続く見込みです。
標準和名はトコブシ
ナガラメとは種子島における地方名で、この貝の標準和名はトコブシといいます。
トコブシは高級食材であるアワビの近縁種。しかし、見た目こそアワビによく似ていますが、大きくても殻長8cm足らずで、厚みもかなり薄めです。
アワビの幼貝と間違われることがしばしばありますが、アワビは殻の表面に空いている穴(呼吸孔)が外に突き出すのに対して、トコブシの場合は突き出さずなめらかになっていることで区別が可能です。
トコブシは全国の磯に生息し、アワビよりもやや浅い場所にいるため磯遊びの際によく見かけますが、多くの場所で漁業権が指定されているため、基本的に採取はできないと考えておいたほうが無難です。
ユニークな地方名が多い
さてこの「トコブシ」という名前ですが、彼らが普段岩のくぼみにピッタリと貼り付いている様子を「床に伏す(ベッドで眠る)」人に例えたのが由来とされています。
その一方で、トコブシは前記のナガラメをはじめ、各地で様々な呼ばれ方をしているユニークな貝です。
「ナガラメ」は彼らの移動スピードが予想外に速いことから「流れるように移動する」と言われたのが由来です。似たものでナガレコ(流れ子)と呼ぶ地域もあります。
またこれらの他に、比較的広い地域で用いられているのがセンネンガイ、マンネンガイなどの大きな数字を冠したもの。一見するとおめでたい名前に思えますが、これはトコブシがアワビに似ているのに、いつまで待っても大きくならないことから名付けられた、ちょっとがっかりな名前だったりします。
また由来ははっきりしないのですが、三重県鳥羽地方では「フクダメ」と呼ばれています。当地ではこれに「福溜め」と漢字を当て、縁起物としておせちなどに用います。
トコブシは美味な貝ですが、身が小さいこともありアワビのように乾燥させて流通するわけではありません。そのため各地で利用されながらも、共通の名前を用いる必要が生まれず、このように各地でバラバラの呼ばれ方をするようになったのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>