口コミで上映延長&連日満席となった、ドキュメンタリー映画『浦安魚市場のこと』。企画経緯や注目を集める理由について、歌川達人さんにお話を聞きました。
(アイキャッチ画像提供:Song River Production)
時間の堆積を感じる「魚」と「おばあちゃん」
――「釣り」の場合、人やジャンルによっても楽しみ方が様々なのですが、釣りを通して生まれるコミュニティに魅力を感じる人も多いです。その点で魚市場を介したコミュニティの形成と似ている部分も感じました。
撮影をしていて、ご年配の方々が僕にはとても魅力的に映りました。「浦安魚市場=人生」の人が多くて、子どもの頃から魚に関わっていた方がほとんど。また、魚市場には子どもからおばあちゃんまでいて、世代間がダイナミックです。日常ではどうしても自分と近い属性の人と交わる機会が多いですが、魚市場ではいろいろな世代の人がいて、それが面白いなと思いました。
東京湾の撮影のために釣り船に乗った時も、様々な年代の人がいて、乗船する前に船宿の前で会話していました。魚も市場も釣りも、特定のテーマで世代関係なく楽しめるという共通点があるように感じます。
それと、「限定された空間」ということにも魅力を感じます。釣り船もそうですが、魚市場もある種の「限定された空間」なのだと思います。普段だったら話しかけない場面でも「限定された空間」だと話してしまう。
特に浦安魚市場については、あの小汚くて薄暗い感じが、会話や出会いを生み出す気がしました。あれが新しいスーパーだと、コミュニケーションの作法や仕方も変わるのだと思います。
――本作は魚を映すカットが多いです。捌くシーンも食事のシーンもとても印象的だったのですが、撮影する際に何か意識されたことはありますか。
撮影している時は、基本的に自分が面白いと思ったものをきちんと見つめようと思って撮っているので、魚を撮っていて面白いと感じていたのだと思います。
最初は「場所」だけを撮ろうと考えていましたが、市場にもいろいろな種類があり、流通の部分が見えないと話が複雑すぎると思いました。どこから仕入れているのかを示すため、築地にも撮影に行ったし、タイミングが良く鯨の解体シーンも撮ることができました。
映像を撮っていると、説得力のあるカットというものがあります。自分の場合は、「時間の堆積」を感じられるものが好きで、例えばおばあちゃんたちも何気なく映ってはいますが、身なりや表情、手元などにすごく時間を感じて、説得力があると思いました。
生き物だからなのか、魚にも同じように時間を感じました。魚を神経締めして捌いている様子を見ていると、その魚の過ごした時間が感じられ、説得力がありました。
――鯨の解体シーンもとても印象的でした。まさに「文化」を映し出すことを意識されているように感じましたが、あのシーンについてはいかがでしょうか。
鯨が持っている社会的な意義・意味はとても特殊で、国や文化によっても全く違います。元々、一般市民からすると複雑でよく分からない部分があると思っていました。
これまでにも、鯨や捕鯨文化を題材にした映画はありますが、それらを観ていて気になったのは、鯨の解体シーンが無いこと。僕は「鯨を食べましょう」でも「捕鯨をやめましょう」でもどちらでもない立場ですが、そこで働いている人たちのリアリティが無いままに議論が加速していることに違和感がありました。
画としての強さももちろんなのですが、この人たちはこうやって生きているのだということが感じられるだけでも意味がある映像だと思いました。商いのやりとりだけではなく、生き物としての流れの中にあるのだということが示せたと思います。