鮮魚輸送の主役はトラックですが、かつては鉄道で運ばれることも多くありました。そして近年、また復権しつつあるようです。
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「普通列車」での鮮魚輸送が始まる
首都圏で先日、普通列車を活用し、鮮魚を都心部に輸送する事業がスタートしました。
この事業は、首都圏の駅ビルで鮮魚店を多数展開する企業と、JR東日本千葉支社が共同で実施するものです。千葉県の銚子近海で獲れた鮮魚をすぐに総武線の普通列車で輸送し、千葉市内の2店舗で販売します。
この事業により、銚子港で水揚げされたばかりの魚が、開店数十分前には都心の店頭に並ぶことになります。JR東日本はこれまでも、新幹線など優等列車で鮮魚を運ぶサービスを展開してきましたが、普通列車での輸送は今回が初めてとなります。
なぜ魚を電車で運ぶのか
現在、鮮魚輸送の圧倒的シェアを占めているのはトラックです。漁港から市場へ、市場から小売店へと小回りがきいて運べるトラックは、鮮魚輸送の中心を担っています。
ただ、トラックは交通や道路の事情によっては遅延もあり、さらに速達性にも劣るところがあります。鉄道による輸送はその逆に、駅から駅、あるいは貨物駅やヤードなど始点と終点の制限がありますが、トラックと比べると定時性に優れ、速達性も高いです。
今回のように、卸売市場を介さず、水揚げ地から駅直結の鮮魚店や料理店に直接鮮魚を届ける場合、鉄道の利点を大きく活かすことが可能になります。
いにしえの「鮮魚列車」はどんなものだったのか
さて、現在のようにトラックでの輸送が主流になる以前にも、鮮魚輸送を鉄道が担っていた時代がありました。鮮魚貨物列車と呼ばれる専用列車が、国鉄や一部の私鉄で運行されていたのです。
20世紀はじめごろから、冷蔵車の普及とともに、鮮魚を鉄道で輸送することが一般化しました。これはクーラーボックスのような構造の車両に鮮魚を氷とともに入れて輸送するもので、漁港周辺の貨物駅から大阪や東京の市場を直接結んでいました。
さらに太平洋戦争後には高速列車も登場し、一時期は荷室の取り合いになるほど人気があったといいます。しかし高速道路網の発達とともにトラックに取って変わられ、現在に至っています。
時代の変化とともに需要や販売経路も変化した結果、再び鉄道で鮮魚輸送が行われるようになったことはまさに「歴史は繰り返す」という格言の通りのように思えます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>