新型コロナウイルスの影響による乗客減で苦境にあえぐ鉄道業界。その代表とも言える「新幹線」で、貨物を輸送する試みがどんどんスタートしています。
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九州新幹線に鮮魚が乗車?
3月12日、全線開業から10年を迎えた九州新幹線。九州の経済の中心地である博多と、南九州最大の都市である鹿児島を結ぶ、文字通り九州の大動脈です。
その3月12日の朝に鹿児島中央駅を出て、9時半前に博多に到着した新幹線「つばめ」号で、乗客と一緒に鹿児島から運ばれてきたのはなんと「鮮魚」でした。
これらの魚は、鹿児島で12日の朝に水揚げされたばかりのブリやカンパチ、タイなどの高級魚。車内から下ろされると、そのまま博多駅ビル10階にある飲食店に届けられたそうです。(『朝どれのブリや真鯛 新幹線で鹿児島から直送 JR博多シティで期間限定「特別メニュー」提供 福岡市』テレビ西日本 2021.4.2)
なぜ魚が「乗客」に?
2011年の全通以来、日本の人口に匹敵するのべ1億2千万人もの乗客を運んだ九州新幹線。しかし昨年からの新型コロナウイルスの影響で、現在は乗客が激減。前年より6割減となってしまいました。
そこでJR九州は、九州新幹線の全区間で「貨客混載事業」を行うことを決定し、昨年12月から実証実験を行ってきました。実験では駅での積み込みにどれくらい時間がかかるのかや、輸送中に荷崩れが起きないかなどの懸念を確認しました。
その結果を踏まえ、今年5月からは流通大手と連携し、本格的に貨客混載事業をスタートする予定だといいます。
新幹線は鮮魚輸送と相性がいい
九州新幹線は最高時速260kmで、鹿児島中央と博多を約1時間半という短時間で結んでいます。JR九州では、この速達性を生かし、野菜や鮮魚などの生鮮食品を中心に貨物需要があると見込んでいます。
そして現在、貨客混載を行っているのは、九州新幹線だけではありません。他社の新幹線でも鮮魚や生鮮品の輸送が実施、もしくは今後の実施が予定されています。
例えばJR東日本では、宮城県のホヤやカキなどの「鮮度が何より大切な」特産魚介類を、東北新幹線で東京へと運ぶ実証実験を昨年より実施しています。またJR西日本でも、九州の鮮魚を山陽新幹線で関西へと運ぶほか、JR東日本と協力し、北陸新幹線で北陸の鮮魚を関東へと運ぶ実験も行っています。
各社とも、採算性などが確認でき次第、本格的な実施に踏み切る姿勢のようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>