魚の住処となり、職漁や遊漁に良い効果をもたらす漁礁。日本では鉄骨やコンクリートで造られたものが主流ですが、世界にはもっと「パワフル」な漁礁が存在します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
伊豆に新たな漁礁
静岡県・伊豆半島南部の南伊豆町沖合に先日、新たな漁礁が沈められました。
漁礁は鉄骨を組んで作られたもので、大きさは13m、重さは約40tとかなり大型なもの。別の場所で製造されたのち、お隣松崎町の松崎新港で台船に積み込まれ、沖合まで運ばれました。
今回は大小あわせて39の漁礁が同じ海域の海底に沈められたそうで、県の担当者は、マダイやイサキ、ヒラメなどが集まるよい漁場となることを期待していると話しています。(『伊豆半島沿岸を豊かな漁場に 巨大な漁礁を設置』静岡第一テレビ 2021.3.31)
漁礁とはどのようなものか
海中に岩などの障害物があると、それを住居とする様々な生物が集まります。また、そこに海藻やサンゴが生えてくるため、それを利用する生物たちもそこに集まってきます。
そのような小動物が集まってくることで、やがてそれ目当ての魚たちも集まります。そういった場所は自然に豊かな漁場となります。そのため、海底に瀬などがある場所は古くから好漁場として名前がつけられ、漁師の稼ぎの場となってきました。
海底が平坦な場所ではそういう効果は見込めないのですが、何らかの障害物を置けば同様の効果が期待できます。そのため、そのような場所に人工物を設置し、人工的に漁場を形成するのが漁礁(人工魚礁)です。
漁礁の材料は様々
漁礁となる障害物の素材は海底に安置でき、自然環境に悪影響を及ぼす物質が含まれていなければどのようなものでも大丈夫です。そのため、沈没船なども時間が経つと漁礁の役割を果たすものになります。
例えば、かつて戦場となった太平洋の海域では、沈没した戦闘機や戦車が良い漁礁となり、それに群がる魚たちと合わせて良いダイビングスポットが形成されている例もあります。
ただ、日本では廃棄物処理に関連する法律が厳しいので、人為的に廃棄物を漁礁として利用することはできません。一方でアメリカではそのようなルールがない場所もあり、日本では想像もつかないようなものが漁礁として利用されています。
電車や空母も
例えば2008年には、ニューヨークの地下鉄の廃棄車両がデラウェア州沖合の海に600両以上も沈められました。この漁礁は漁場やサンゴ礁を形成し、好漁場として地元の経済に大きく貢献したといいます
更にはなんと「空母」を漁礁に用いた例も。アメリカ海軍の退役空母「オリスカニー」は2006年にフロリダ沖に沈められ、現役の漁礁として活躍しているそうです。
これらの漁礁素材はもちろん、沈める前に自然破壊につながる物質はすべて除去されています。廃棄処分を行いつつ漁業にも貢献する、賢い方法のように思えます。日本でももっとフレキシブルにいろいろなものを漁礁に活用してもよいのかもしれないですね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>