古くから天ぷらだねとして食べられてきたシロギス。小魚で簡単に釣れることもあり、大衆魚のようなイメージがありますが、実は今や高級魚の扱いとなっています。
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シロギスの「完全養殖もの」が登場
天ぷらのネタとして人気の高いシロギス。大きくても30cm程度の小魚ですが、特に関東地方においては一年を通して需要のある魚です。
そんなシロギスに関して先日、面白いニュースがありました。広島県内の企業が「完全養殖シロギスの量産」に成功したというのです。
もともと県内の福山大学がシロギスの完全養殖技術を開発しており、その技術を産業化したものだそうです。年間を通して水温の高い沖縄県の養殖施設で育てて出荷され、「びんごの姫」というブランド名で展開される予定です。
実は高級魚のシロギス
シロギスは食材としてのみならず、釣りの対象としても大変に人気のある魚です。特に初夏から秋にかけては浅瀬に集まり、釣り初心者や子供でも簡単に釣ることができます。そのため「シロギスは大衆魚」というイメージを持っている人も多いようです。
しかし市場や卸売市場といった流通の場では、必ずしもそうとはいえません。ある程度サイズが有る個体はそれなりの価格で取引され、とくに20cmを上回るものはキロ数千円の値が付くこともあります。まごうことなき高級魚なのです。
更に、シロギスを天ぷらダネにするためには開きにする必要があるのですが、手間がかかるために人件費も上乗せされます。結果として、特に大型の国産シロギスは高級天ぷら店にいかないと食べられない高級食材になっています。なお、安価な天ぷら屋さんのキスは、ベトナムなどに生息する近縁種であることが多いようです。
完全養殖の背景
そもそもシロギスという魚について「養殖魚」のイメージを持っている人は現時点ではほぼいないのではないかと思います。それがいきなり一足飛びに「完全養殖」となったのは一体なぜなのでしょうか。
まず、シロギスは上記の通り高級魚となりつつある魚です。ゆえに潜在的な養殖もの需要はかなりあると見られ、特に大型の個体が量産できるのであればかなり意義はあるでしょう。
またシロギスは夏から秋にかけて産卵のために接岸するのですが、漁獲もその時期に強く偏ります。天ぷらネタとしての需要は一年中あるので、天然物が品薄のときに養殖物がその需給ギャップを埋めることができるでしょう。
漁獲量が減少中
そして、前記の企業が完全養殖にこだわった理由は「漁獲高の激減」にあるのだといいます。
広島県が臨む瀬戸内海はかつてシロギスの名産地だったのですが、温暖化、気候変動による海中環境の変化や狭い海域での乱獲によりシロギス資源量は減少の一途を辿っており、今では往時の10分の1程度になっているとも言われています。持続可能なシロギス利用のためにも、完全養殖の実現は重要だったのだそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>