日本人にとって素も馴染み深い魚のひとつコイ。しかし、彼らは世界中で恐れられる「有害外来魚」でもあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
鳥取県の川にニシキゴイ
海と湖に囲まれた水の都・鳥取県米子市。その住宅街を流れる川で先日、ニシキゴイが泳いでいるのが確認され、ニュースになりました。
赤や白、金の模様が美しいニシキゴイは、コイを人工的に改良して作られた魚。当然、野生には存在しないものです。
今回見つかったニシキゴイも自然に発生・繁殖したものであるとは考えにくく、誰かが飼っていたものが逃げたか、あるいは人為的に放流されたものである可能性が高いです。(『鮮やかなニシキゴイが住宅街の川に…でも心配大きい』テレ朝ニュース 2021.6.18)
当たり前の光景?
ただ、今回のように「河川でニシキゴイが見つかる」という例は実はそんなに珍しいことではありません。住宅街を流れる都市河川ではしばしばニシキゴイの姿が見られ、地域住民が餌やりをして半ば飼育している例も多いです。
そのためネット上では「こんな当たり前のことをニュースにするな」と憤るような声も見受けられました。
しかし、実は彼らニシキゴイは自然環境下において「最悪の破壊者」になってしまう可能性を秘めている存在。直接的に我々ヒトに影響を与えるわけではないものの、その川の姿を不可逆的に変えてしまう恐れがあるのです。
有害な外来魚でもあるコイ
コイは日本人に広く親しまれている魚ですが、日本における在来のコイはもともとごく限られた水域のみに生息していたものだと言われています。そのため多くの場所ではコイは「国内外来魚」です。現代でも、多くの場所で日々コイの放流が行われています。
そして我が国の河川や湖沼では、コイはその大きさから天敵がおらず「生態ピラミッドの頂点」を占める存在となります。コイは貪欲な性質で植物性・動物性のあらゆるものを何でも食べるため、放流された場所の生態系を破壊し尽くします。
また、その大きな尾びれが川底の泥を巻き上げ、それによって透明度が下がり水生植物が枯れてしまった例もあるそうです。
北アメリカでは移植されたコイが、その水域における単一優占種になってしまった例が多発しました。そのため国際自然保護連合によって「世界の侵略的外来種ワースト100」のひとつに指定されています。
日本特有の事情もあります。というのもコイ、とくにニシキゴイは日本人に愛されてすぎているため「地域住民」によって保護や放流が行われてしまう例も多いのです。もちろんそのようなことをする人々は、水域の生物多様性などには意識が至っていません。
「住宅街のニシキゴイ」というニュースからは、生物学的リテラシーを誰もが持つ必要性が読み取れるのではないかと思うのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>